アイズ・オン・ユー | Woman of the Hour (2023)
3.1/5.0
実在の殺人犯が起こした惨たらしい事件の記録に基づいた物語で、俳優のアナ・ケンドリックが主演 兼 初監督を務めたスリラー映画。
プロの写真家を騙りその被写体のモデルにと女性達を騙しながら多くの人々を手にかけたロドニー・アルカラが、罪を重ねつつ同時に当時のTVショーにも出演していたという事実がおぞましく、それがフィクションではないことに戦慄する。
にわかには信じがたいショッキングな事実が題材に選ばれていることもありながら、いわゆるメイルゲイズカルチャー (Male Gaze / 男性のまなざし = 女性は常に男性の欲望の対象として見做される) が色濃く残っていた1970年代の影の側面の描写がとても巧みで、何とも形容しがたい居心地の悪さを感じる。
フェミニズム映画なのか? といわれればそうなのかも知れないが、声高で攻撃的な主張というよりは、この映画で描かれているように不均衡で異常な時代がかつてあったことの (再) 提示と、現代においてもそういった異常性の残滓がまだ存在しているのではないかという社会への問いかけが、アナ・ケンドリックの成したかったことなのではないかと感じた。
映画的演出の部分を見ると、メイルゲイズの不快やそれを浴びる側の恐怖が鋭く描写されたカットがたくさんある一方で、時系列や登場人物やシーンが行ったりきたりで混乱しそうなバタバタ演出もやや気になり、もう少しシンプルでクラシックな時系列通りの構造で整理した方がより良かったのではないかと感じた。
実話に基づいているという前提があるので、勧善懲悪的で映画的な結末が望めないことは想定していたが、後味が苦くスッキリとは程遠い終劇には気分が沈んでしまった。
ただ、そのような読後感をもってこんなことが二度と起きないようにという気持ちを多くの人に持ってもらうことこそが製作者達の狙いなのだろうとも解釈した。
映画単品の完成度としては、光る部分もあれば歪な部分もあって微妙かなと思いつつ、そのメッセージの価値は高いと感じる。
アナ・ケンドリックが今後も俳優だけでなく監督としても映画に関わり続けるのだとしたら、次はどんな物語がどのように語られるのか楽しみだ。