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Cinema Review

コンクリート・ユートピア | Concrete Utopia (2021)



2.5/5.0

大災害によって世界が壊滅した中、唯一崩壊せず残ったアパートの人々はどう生きていくのかという、ポストアポカリプスなサバイバルをテーマにした作品。

韓国映画の近年のレベルの高さには注目しているので、こちらも期待して観賞した。


生活の継続が難しいどころか文明が崩壊し再起不能なレベルの激変があっても、もしかしたら生き残った人々はこの映画の前半で描かれているような、どこか緩さがあって危機感がない日々を続けようとするのかも知れないと感じた。

正常性バイアスという言葉があるが、極端な事象が前触れなしに発生した時に、自分たちがこういった行動を絶対に取らないという確信もできないという点で、シミュレーション映画としてはよくできている部分がある。

ただ、後半ではやはり予想通りというか、地獄のように苛烈な展開になり、救いのある結末にたどり着くことは決してない。


イ・ビョンホンが演じる、生き残った人々をまとめあげる役柄の存在感は特筆すべき強さがある。

名優ともいわれる俳優の演技力・表現力はさすが別格だなとあらためて感じたが、所在なさそうで頼りなく言葉も少ない前半から、状況の変化に従って変貌していく後半にかけての演技の段階的変化が素晴らしく、人間が狂っていく (もしくは隠していた本性が露呈していく) ということはまさにこういうことなんだろうと恐怖を感じるほどの説得力がある。


演出についてはオーソドックスながら安定感がありストレスをほとんど感じなかったが、中盤で「このアパートでの正しい暮らし方」のガイダンスビデオのような、そうでもないような中途半端なパートが唐突にあり、これは誰がどのような手段でどういった目的で誰に向けて作ったガイダンスなのかが全く分からず、演出として明らかに失敗しているように感じた。

監督が他映画やドラマ等で同様のコメディチックでメタなパートの演出を見て自分もやってみたかったからやってみた的な、製作者達の手段先行な浅はかさを感じてしまい、そのパートでかなり興ざめしてしまって残念だった。


イ・ビョンホンが演じる役の他にも主役を含め複数の主要登場人物がいるが、劇中でフェイドアウトしてその後が描かれないままの役がいたり、主人公役が傍観者的な立場を越えて存在感を発揮するところが少なかったり、総じて脇を固めるべきキャラクター達の扱いが雑な部分はやや気になった。


全般的に、イ・ビョンホンの俳優力の凄まじさでもって力業的に映画として成立させているが、それ以外の部分は凡庸で雑さが目立ち、面白いのに惜しい映画だなという読後感が残った。

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Shoji Taniguchi | 谷口 昇司

Creative Director

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美術大学にて映像を中心に学び

現在はマーケティング業界で働き中

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