13F | The Thirteenth Floor (1999)
3.2/5.0
ダニエル・ガロイが1964年に発表した小説を原作とする米・独製作のSF映画で、ドイツ出身のジョセフ・ラスナックが監督を担っている。
ド派手なSFパニック映画が得意な監督として有名なローランド・エメリッヒが製作に携わっているが、今作においてはエメリッヒ風味はほとんどなく、むしろ真面目過ぎるのではと感じるほどの大人しいタッチになっている。
仮想現実を研究している開発者が主人公で、その上司が何者かによって殺害され、犯行の関与を警察に疑われた主人公が身の潔白を証明するために行動する。
古典的なフーダニット (Who-Done-It) 形式でミステリー/サスペンス映画の体裁を基本にしながら、主人公にとっての現実と仮想現実という複数の世界を行き来しつつ物語が展開するところがユニーク。
今作が公開された1999年は、映画の歴史に燦然と輝くSF映画「マトリックス」の1作目が公開された年でもあり、両作とも同じ仮想現実を扱っていながら、アプローチも展開も全く違っているところが面白い。
原作小説の良さもあってか先が気になる脚本構成で鑑賞中に退屈することはなく、仮想現実として存在する1930年代のロサンゼルスの風景や緻密なアンサンブルの丁寧な演出があって目を引くが、個人的にはカット間の切り替わりが突然すごく雑に感じたり、その視覚的移動の連続性があまり練られておらずパッチワークのような繋ぎ方になっているように感じ、たびたび没入感が削がれたところがやや不満に感じた。
脚本の中〜終盤でかなり大きな仕掛けがあり、そこまでの展開から半ば予想はできつつも、ケレン味豊かな見せ方の演出もあって驚きがあった。
また、そこで種を明かして終わりということではなく、映画冒頭で提示されたフーダニットの問に対するアクロバティックな解も含め、納得感のある物語の決着まで観ることができる。
出演俳優の中では、「フルメタル・ジャケット」や「デアデビル」で記憶に残るキャラクターを演じてきたヴィンセント・ドノフリオが最も印象に残る。
繊細で優しそうにも見えながら狂気も抱えるという不安定な役を演じることにおいて、彼ほどの適任はいなかっただろう。
主人公にとっての上司の娘を名乗る謎の女性を演じたグレッチェン・モルの存在感も、今作の中では際立っている。
「マトリックス」のように派手だったり奇抜な画が必ずしも含まれていなくとも、脚本の面白さと俳優達の好演があれば良い映画になり得るという作品の好例だとは思うけれど、製作者達の映画演出技術の稚拙さが明らかに映画全体の風格と品質を下げてしまっていたところが個人的には残念だった。