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空の検索で269件の結果が見つかりました。
- 罪人たち | Sinners (2025)
4.2/5.0 「クリード チャンプを継ぐ男」や「ブラックパンサー」シリーズの脚本・監督を手掛けたライアン・クーグラーによるホラー映画で、同監督作の多数で主演もしくは重要な役柄で出演してきたマイケル・B・ジョーダンが今作でも1人2役で主演している。 1930年代のアメリカを舞台に、単なるホラーとしてではなく、人種差別や黒人文化についてのテーマが組み込まれた物語になっていて、さすがはライアン・クーグラーと感じる。 マイケル・B・ジョーダンが演じる双子の兄弟はギャングとして生きてきたが、故郷のミシシッピに戻り、黒人たちが自由に集えるダンスホールを立ち上げる。 当時の米国は禁酒法と白人至上主義によって黒人の娯楽が著しく制限されており、黒人達は宗教と音楽、特にブルースとゴスペルによって自己を支えてきたという実際の歴史的背景が重い。 黒人のために作られたそのダンスホールに白人の音楽家の一団が現れるが… というところから、映画のジャンルが複雑に転回していく。 表層的にこの作品を見れば吸血鬼が登場するホラー映画ということになるが、今作の設定やモチーフはあくまでも物語のテーマを描く上で用いられているに過ぎない。 「吸血」は白人の支配階級によって行われた非白人に対しての搾取のメタファーであり、「富・文化・命の収奪の過去」が語り直されているのだと解釈するべきだろう。 ライアン・クーグラーが手掛ける作品は常に重厚なテーマが描かれており、鑑賞後にずっしりと重い読後感が残るものが多いが、決してそれだけではなく、俳優や監督をはじめとする製作スタッフ達による卓越した撮影・演出・編集技術によって非常に質の高いエンタテインメントに仕上がっている点には、いつも感心してしまう。 その中でも今作は特に、楽器演奏や歌唱シーンを中心とする音響演出のダイナミズムが、比類なきレベルの素晴らしさだった。 https://filmarks.com/movies/119046/reviews/206364074
- 回路 | Pulse (2000)
4.3/5.0 「CURE」「クリーピー 偽りの隣人」等、ホラーやサスペンスジャンルで話題作を製作し続ける黒沢清が脚本・監督を手掛けたホラー映画で、カンヌ国際映画祭に出品され、国際映画批評家連盟賞を受賞、米国ではリメイクもされている作品。 主演の麻生久美子をはじめ、加藤晴彦、小雪、有坂来瞳といった (製作当時の) 若手俳優達が出演している。 観葉植物を販売する会社で働く主人公の同僚が不可解な自殺を遂げてから、その周辺では人々が黒い影を残して消え去るという怪現象が発生するようになる。 一方、加藤晴彦が演じる大学生は「幽霊に会いたいですか」と表示されるウェブサイトに遭遇し、PCの操作に詳しい友人を頼りながらその調査を進めるが、次第にその友人も異常な行動を取るようになっていく。 世界ではどんな異変が起きているのか、なぜそれが起き始めたのか、「幽霊」とは何なのか… 黒沢清監督の恐怖演出は、安直なジャンプスケア等に頼らず、俳優の身体演技、そして画の構図と明暗および音という、極めてオーセンティックな要素で構成されていて、他の映画監督とは一線を画するものを感じる。 その演出には、自分にはこの恐怖から逃げる場所がないと錯覚してしまうほどの圧倒的な力がある。 俳優達の好演 (その的確な演技づけも監督の力量によるものだろう) もあって、今作の恐怖演出のレベルは極めて高い。 社会にまだインターネットが普及しきっておらず、一部の人達のものだった当時のネットが持っていた得体の知れない空気感が活かされた演出は、今の時代に観返してもすごく不気味。 結末について言及することは避けるが、いわゆるハリウッド映画的な大団円や勧善懲悪な構造はこの作品には存在せず、虚無感と深い余韻が残り、自分にはとても印象的で美しいものに感じられた。 https://filmarks.com/movies/18303/reviews/152638517
- アンキャニー 不気味の谷 | Uncanny (2019)
3.7/5.0 人間と見分けがつかないほどの精巧な肉体と知能を持ったAIと、共に過ごすことになった2人の人間の会話劇を中心に展開するサスペンスSFの中篇。 出演者は「スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団」に出演していたマーク・ウェバーと、日本では知名度が低いが米国のドラマに出演しているデヴィッド・クレイトン・ロジャース、ルーシー・グリフィスのほぼ3名。 監督のマシュー・ルートワイラーは、ジェームズ・ガンが今のように超メジャーになる以前に脚本・監督を手掛けた密かな名作「スーパー!」で製作総指揮を担っていたらしい。 テクノロジー雑誌の記者の女性が、独占取材として訪れた極秘AI研究施設にて、天才研究者とその研究者が生み出した人型AIと出会う。 記者は人型AIとして紹介された人物の挙動にとまどいながらも、3人で過ごす時間を通してその研究成果を観察・記録していく。 劇中に何度か登場する、研究者と人型AIが行うチェスを行うシーンを通して物語のテーマが隠喩的に見えてくる脚本が面白い。 SFジャンルながら派手なVFXは全くといっていいほど存在せず、低予算で製作されたことは明らかだけれど、俳優達それぞれの演技レベルの高さや、地味ながらもしっかり安定した構図づくり、丁寧に施された明暗のカラーグレーディングがあり、物語の没入感を妨げる安っぽさはほとんど見られない。 米国においては (まだ) 一流という評価を得ていない俳優であっても、これほどハイレベルで繊細な演技ができる人材がたくさんいるのだという層の厚さを感じた。 SF映画やドラマのファンであれば脚本に組み込まれたツイストに序盤〜中盤あたりで気づく人も多そうで、会話劇中心な作劇の弱点ともいえる画の変化の乏しさがそのままこの作品の弱点でもあるけれど、この映画には導入から結末まで退屈に感じるシーンはなかった。 結末や真実を知った上でもういちど最初から観てみたいと思える映画は、シンプルに良い映画だといえるだろう。 https://filmarks.com/movies/87117/reviews/208244693
- タイムマシン | Time Machine (2019)
3.2/5.0 映像作家の袴田くるみによる、SFアニメーション短篇。 過去の出来事と自身の振る舞いを悔いて生きる男と、彼が大切に思っていた者たちを巡る物語。 性暴力を受けた主人公の友人がとった悲劇的な行動を止めるために、タイムマシンを開発して時を遡りたいと願う男。 苦く忘れがたい過去の記憶と、友人が受けた屈辱が描かれる。 監督の作劇の軸として、人間の加虐 / 被虐の残酷さとの向き合いがあるのだろうと感じられる。 物語自体には大きなツイストは見つけられないものの、今作の画づくりには独特なアートディレクションのセンスで惹きつける力を感じる。 スタッフロール後の幻想的なラストシーンも美しい。 ただ、近未来SFな世界観からは物語との実質的な関連や必然性を見つけられず、その描かれ方もやや凡庸で、ちぐはぐな印象を覚えた。 https://filmarks.com/movies/86342/reviews/208222344
- ロスト・バス | The Lost Bus (2025)
3.9/5.0 2018年に米国で発生した史上最悪級の大規模山火事「キャンプファイア」に着想を得た、事実に基づくサバイバル映画。 リジー・ジョンソンの著書「Paradise: One Town's Struggle to Survive an American Wildfire」を原作として、「ボーン・アイデンティティ」シリーズや「ユナイテッド93」等でリアリティが高い作風に定評のあるポール・グリーングラスが脚本・監督を担う。 山火事を生き延びた実在のバス運転手をマシュー・マコノヒーが、教師をアメリカ・フェレーラが演じている。 カリフォルニア州の小さな街で発生した山火事が、強風と乾燥で瞬く間に街を飲み込み、住民たちは混乱に陥る。 経済面や家族との関係においてどん底にいたスクールバス運転手の主人公は、臨時運転手依頼を受けて小学生たち22名と教師1名を乗せ避難を開始するが、街から脱出するための経路は炎と煙で閉ざされ、外部との通信手段も絶たれ、主人公たちは炎が取り囲む状況に閉じ込められてしまう。 さすがポール・グリーングラスの演出力というべきか、まるで自分もその危機的状況に放り込まれたと錯覚してしまうような没入感があり、ハラハラしながら鑑賞してしまう。 事実を扱うドキュメンタリー番組の製作に携わってきたキャリアを持つ監督の文脈の力が、今作においても存分に発揮されていると感じる。 VFXも効果的に使用されていながら、撮影時間帯をマジックアワーのみに限定したり、バス車内のライティングもリアリティを重視し設置せずに撮影するといった随所でのプロフェッショナルなこだわりが、映像のリアリティを飛躍的に高めている。 配役についても同様で、実際の山火事発生時に消防活動の責任者だった人物やその同僚といった人々を本人役として出演させることが、リアリティの向上に寄与している。 主人公役を担ったマシュー・マコノヒーの「落ちぶれてしまった人間」を演じる俳優力も素晴らしく、映画が始まってしばらくの間は、無名だが相当に演技力のある俳優が主人公を演じているのだと勘違いしてしまったほど。 八方塞がりな状況にある主人公が究極の選択を迫られるシーンは、自分のことのように身につまされたし、その選択の結果と行動には感動させられてしまった。 浮世離れしたスマートでスーパーヒーローだけが世界を救うのではなく、現実世界のヒーローは私たちと同じような悩みと苦しみを抱えながら生きる小さな人間だったのだ。 映画的脚色はありながらも事実に基づいた脚本構成のため、前半部分の物語展開が少しゆっくりめに感じるが、映画全体で俯瞰すると、その前半も必要不可欠だったと感じる。 実際の山火事の当事国である米国以外においてはどれほどの興味喚起力がある作品かは分からないが、映画作品としての完成度はとても高い秀作。 https://filmarks.com/movies/123348/reviews/208220219
- マニブスの種 | manibus seeds (2021)
2.1/5.0 俳優 兼 映画監督の芦原健介による短篇で、新型コロナ禍にあった2021年に製作された作品。 工場で働き質素に暮らす主人公のもとに届いた差出人不明の封筒には、謎の植物の種が入っていて… という導入。 あえてジャンルを区別すればSFホラーということになるのかなと思うが、結末には少し意外性があり、面白かった。 コロナ禍という、人類史上体験したことのない規模の環境激変によって起きたコミュニケーションのあり方の変化が、脚本に反映されているように感じる。 ただ、おそらく限定された予算でたくさん工夫して製作されたものであろうと想像はしつつも、種が成長して出現する生物のチープさにはうーんと感じてしまった。VFXがどうこうではなくて、単純に演技づけに問題があるような… 主人公を演じる菅野貴夫は寡黙な主人公を好演していると感じたし、職場の同僚の女性を演じる小島彩乃の存在感も良かった。 が、俳優達の表情の変化や身体の演技で十分に表現できるだろうと思える些細な内容まで、全てを台詞にして喋らせてしまう演出は、とても気になってしまった。 芦原監督の演出力の不足もあるかもしれないが、それよりは邦画全体にある悪しき慣習というか… 伝わらなかったらどうしよう病のように感じる。 製作者達が、俳優の本来の表現力を信じていないのか? 観客の鑑賞力を信じられないのか? それとも両方なのだろうか… 短篇なのに無駄に冗長に感じる間も多く、そこに演出を見つけられなかった (これ何の時間?) ところもやや残念。 https://filmarks.com/movies/103411/reviews/208217720
- ジョディ | Jodie (2021)
2.4/5.0 映像作家の袴田くるみによる、SFアニメーション短篇。 所持者から虐待を受け続け、その度に修理されて所持者のもとへ戻される女性型ロボットと、その修理を行う女性の会話劇を中心に構成されている。 今ではSF映画の金字塔ともいわれる「ブレードランナー (1982)」で描かれていた、生命や個人のアイデンティティの構築または揺らぎといったテーマに、現代的なフェミニズムが重ねられたように見える脚本からは、作家としての軸があると感じる。 ただ、アニメーション作品としての演出全般は退屈で、アングルと構図の作り方、台詞と演技の間、人物達の細かい表情の変化といった部分でハッと驚かされるところが見つけられなかった。 人物達の奥に見えるレトロフューチャーな世界観はとても魅力的だったが、それが単なる書き割りになってしまっていて変化がなく、そこに奥行きが感じられなかったところも残念。 https://filmarks.com/movies/110272/reviews/208217710
- Crevice (2024)
3.0/5.0 2001年生まれの新世代映像作家、福嶋颯太による短篇アニメーション。 原住民の少女と文明社会から来た男の交流と、予期しない展開が描かれる。 未開文明と現代文明の接触、摩擦、そして迎える悲劇の結末というストーリー構成は、手塚治虫氏の短篇漫画作品にも同様構成のものが複数あり、普遍的なテーマ性を感じる。 今作のストーリーからはそれほど驚きがあるといえるところは見つけられないが、ただ美しいアニメーションを観て終わるだけではない展開は面白い。 人物や意匠の造形にも取り立てて個性的と感じるところはなかったけれど、彩色のセンスは独特で、高彩度・多色相の複数色がぶつかるカラーリングのコンビネーションは、なかなか他の作品で観られる種類のものではなく、作家の強い個性が確かに感じられた。 https://filmarks.com/movies/118000/reviews/207551182
- グッドニュース | Good News (2025)
2.5/5.0 1970年に日本で発生した「よど号ハイジャック事件」をモチーフにしながらフィクションとして製作された、サスペンスジャンルのNETFLIX映画。 韓国からはソル・ギョング、ホン・ギョン、リュ・スンボム等の俳優が、日本からは山田孝之、椎名桔平、笠松将らが出演している。 革命を狙う日本の左翼グループが羽田空港を飛び立った旅客機をハイジャックし、乗客を人質にとって北朝鮮への亡命を要求する。 その旅客機は北朝鮮の平壌に向かうはずだったが、韓国・金浦空港へ着陸。 事件の裏では韓国と北朝鮮の管制官達の無線ジャックの闘いがあったり、韓国情報部が秘密作戦を進めていたり、国際的な駆け引きが同時に進行していく。 韓国と日本はどのようにこの事件と向き合い、解決をはかるのか? が、様々な思惑を持つ登場人物達の群像劇として描かれる。 韓国映画ならではというか、実際の事件が発生した日本主体ではきっとできなかっただろうというか、サスペンスフルなストーリー展開がただ深刻に重く描かれるのではなく、状況に翻弄される人々の混乱や悲哀をブラックユーモアのテイストで描く演出が独特。 ただ、個人的にはサスペンスとユーモアが絶妙に噛み合っているように感じられず、展開がやや散漫な印象をもった。 また、韓国と日本を中心にたくさんの俳優が共演しているが、日本側の俳優の演技が単調かつ漫画的で安っぽく、明らかに映画作品としての品格を下げてしまっているように感じた点はとても残念だった。 旅客機の機長役の椎名桔平や政務次官役の山田孝之の演技にはプロフェッショナルの矜持や力量を感じたが、それ以外の出演者達の演技の引き出しの少なさや幼稚さには、物語への没入感を何度も妨げられ、終劇する頃にはすっかり興ざめしてしまった。 作品世界に没入することができれば、もっときちんと脚本構成やテーマそのものを楽しめたように思うのだけれど… 残念。 https://filmarks.com/movies/121111/reviews/207551054
- ANIMA (2019)
4.2/5.0 若くして「ブギーナイツ」や「マグノリア」等を手掛け、その後も芸術性の高い作品で高評価を獲得し続けているポール・トーマス・アンダーソン監督と、ロックバンドのレディオヘッドを率いるトム・ヨークが主演と音楽を担う形でコラボレーションして製作された、極めて詩的で実験的なミュージカル短篇。 地下鉄や都市を舞台に、夢と現実の狭間を彷徨う主人公が、電車内で偶然見かけた謎の女性に心を惹かれる。 女性が忘れていった鞄を追う主人公は、やがて超現実的な世界に迷いこんでいく。 明確なストーリーテリングがある映画というよりも、倦怠感に塗れ不安定な世界の描写と、そこに確からしきものを見出そうとするもどかしさのを追体験する映像作品と理解することが正しいように感じる。 完全に統率された集団演技と浮遊感あふれる音楽がシンクロしながら描かれるシーンの数々は、不気味ながらも美しく、素晴らしい完成度の芸術作品として仕上げられている。 観る人を確実に選ぶ種類の極めて先鋭的な作品ではあるものの、実験映像作品としては傑作と評価できるものだと感じる。 自分にとっては美術大学に在籍していた頃によく観て刺激を受けていた西欧のアニメーション作品や実験映像作品の数々が思い出される時間だった。 https://filmarks.com/movies/84870/reviews/207550993









