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空の検索で269件の結果が見つかりました。

  • 宇宙探索編集部 | Journey to the West (2023)

    4.9/5.0 中国の若手映画監督コン・ダーシャン (孔大山) による初の長編で、中国の映画祭で多数受賞しただけでなくアジア各国の映画祭でも話題になった作品。 SF雑誌「宇宙探索」編集長の主人公が、中国の辺境にある村で発生した怪現象の真相解明のため、その編集部員達を連れて現地へと旅する物語。 80〜90年代に実際に存在した宇宙ブーム時代に創刊された「宇宙探索」の編集部が、いまや廃刊寸前の困窮状態という、いきなりピンチな導入からぐっと惹き込まれる。 宇宙人の存在探求に人生を注いだ (注ぎ過ぎてしまった) 主人公が完全に浮世離れしてしまっていることに対し、いい加減に現実と向き合えと冷たくあたりながらも、そんな主人公にずっと寄り添い続けてきたのだろうと分かる編集部員のキャラクターがとてもいい。 どう見ても人間としてギリギリな主人公を筆頭に、誰ひとりまともではなさそうな他登場人物達への愛ある描かれ方が素晴らしい。 描かれるほとんど全ての人物やモチーフが情けない空気を纏っていて、終始真剣な主人公とダサ過ぎる状況のギャップで起きる気まずい空気が本当に面白く、一般的なコメディ映画とは趣が異なった笑えるシーンが何度もある。 中国の代表的な物語「西遊記」の英題「Journey to the West」が副題に添えられてある通り、一行による中国西部への奇妙な旅がドキュメンタリーを模したスタイルで描かれるのだが、そこで映し出される中国辺境の村々の埃っぽさや圧倒的なスケールのロケーションがとても魅力的。 主人公のキャラクターの参照元は三蔵法師で、旅の途中で一行に合流する謎めいた予言青年は孫悟空、そして三蔵法師が天竺で授かる経典の教えが、今作において主人公がどうしても知りたいと願い、宇宙人に取材したかった真理なのだろう。 作品のタッチは一見オフビートなロードムービーで、手持ちカメラによるドキュメンタリータッチの画づくりをベースとしていて、撮影と編集の知識を持たない素人が製作したように見える稚拙なアングルやジャンプカットが多くありながら、実はカットの連続性や視点誘導等が計算されていて、物語に没入できるよう徹底的に配慮されている演出に驚かされる。 それに加えて、各章の扉画や重要なシーンでは、ドキッとするほど美しいアングルとレイアウトが唐突に入ってくる。 アートディレクションとテンポの緩急を完全に理解した製作者達による、作品全体を俯瞰で捉えたうえでのハイレベルな演出設計だ。 楽曲に関する演出センスも全篇を通して秀逸で、オープニングタイトルで流れるショスタコーヴィチのワルツ第2番 (キューブリックの「アイズ・ワイド・シャット」でも使われている) の使われ方も皮肉的に壮大で楽しいが、エンディングで流れるスー・ユンイン (蘇運瑩) というシンガーソングライターによる「生活倒影」の歌詞と旋律が作品鑑賞後の読後感をより強くし、また涙が出るほど感動してしまった。 なぜ主人公が狂信的なまでに宇宙人の存在に固執し、その存在との邂逅を願ってやまないのか。 序盤においては劇中の登場人物達と同じように理解も共感も難しく、憎めない変人といった視点から鑑賞していたが、終盤においてはその真意が分かると同時に、涙が出るほど共感してしまった。 私たちが宇宙に存在する意味とは何かという、極めてSF的でありながら人間にとって原初の謎に対して主人公が最後に見出す答えが、素晴らしく詩的で、このうえなく美しい。 この映画の物語が詩そのものであるといってもいいだろう。 観る人を選ぶ種類の作品かも知れないとは思いつつ、センス・オブ・ワンダーが秘められた物語が大好きで、かつカッコいい人々の成功譚よりもダサい人々の哀愁ある物語を好む自分にとっては、これからも何度も観返したいと思う、とても大切な作品になった。 https://filmarks.com/movies/102086/reviews/189325276

  • ロボット・ドリームズ | Robot Dreams (2023)

    4.2/5.0 米国の作家サラ・バロンによる同題のグラフィックノベルを原作とする、スペイン・フランス合作のアニメーション映画。 監督を務めたスペイン出身のパブロ・ベルヘルにとっては、今作が初の長編アニメーション作品とのこと。 舞台は1980年代のニューヨーク、孤独を感じながら都会に暮らす主人公は犬で、名前もドッグ。 もうひとりの主人公ともいえるロボットとドッグの出会い、友情、もしくは愛情が、セリフやナレーションを一切排した演出で丁寧に描かれる。 あるきっかけからドッグとロボットが離ればなれになってからが物語の核心ともいえるが、その描かれ方がとても秀逸。 表情や楽曲で悲壮感を前面に出すような貧相な演出では全くなく、むしろ状況や心境の変化が淡々と描かれるからこそ、切なさの輪郭がより明確に見えてくる。 ドッグとロボットが2人で過ごしていた頃の、慎ましくささやかな幸せの描写との演出の落差が巧み。 作品タイトルの意味が少しずつ理解できてくる展開に、心が苦しくなる。 どんな理由がそこにあったにせよ、大切に想っていた誰かと離れて暮らすうちに、それぞれの事情や感情は変化していく。 愛は憎しみに変わるといった単純な話ではなく、想いは残りながらそれ以外の感情に形を変えることも、他の誰かに対してより大きな想いを寄せることになる場合もあるのだ。 そんな感情の機微のリアリティがドッグとロボットを通して繊細に描かれていて、どちらのキャラクターに対しても共感する部分があり、心を打たれた。 何よりも、劇中で印象的に用いられるアース・ウィンド&ファイアーの名曲「セプテンバー」は、この作品を鑑賞した多くの人の心に残るだろう。 曲調の素晴らしさと切なさはもとより、その歌詞は、ドッグとロボットが過ごしたかけがえのない日々そのものを描いているように感じる。 https://filmarks.com/movies/112460/reviews/200966599

  • ファンタスティック4: ファースト・ステップ | The Fantastic Four: First Steps (2025)

    3.8/5.0 マーベル・スタジオが製作・展開するマーベル・シネマティック・ユニバース (MCU) に属する37作品目の映画で、同タイトルはこれまで何度か20世紀FOXによって実写映画化されてきたが、マーベル・スタジオによって製作されるのは今回が初めて。 ペドロ・パスカル、ヴァネッサ・カービー、ジョセフ・クインといった豪華なスター俳優達が出演し、MCUドラマ「ワンダヴィジョン」を手掛けたマット・シャクマンが監督を担っている。 マルチバース (並行宇宙) 設定が取り入れられている現在のMCUならではだなと感じたが、今作の主な舞台は地球ではあるものの、これまでのMCUで舞台になってきた地球とは別の世界で、1960年代風のファッションやカルチャーと超未来的な科学技術が同時に存在している。 「アイアンマン (2008)」から現在まで長大な歴史を描いてきたMCUの世界に、マーベルコミックスにおける最古参のヒーローチームであるファンタスティック4の存在が今から入り込む余地などないように思えたが、この設定の活用の仕方は上手いなと感じた。 MCUの世界に既に多数存在する他のキャラクター達やシリーズのこれまでの歴史との整合性を気にすることなく、独立性の高い物語を描くことができるからだ。 実際、今作の物語の展開はとてもシンプルだし、昨今何かと (主にネガティブな) 話題にされがちな「作品鑑賞前に他の作品群を山ほど予習しなければいけない問題」を回避できている。 シルバーサーファーやギャラクタスといった、マーベルコミックスにおける人気キャラクターがヴィランとして登場する脚本やその描かれ方にはケレン味があって楽しかったが、良くも悪くもウェルメイドで優等生的でもあるなぁという印象。 期待通りの面白さや満足感はあったのだけれど、期待を越える興奮があったとまではいえないというか… 画づくりについては、これまでのMCU作品とはひと味違ったポップでビビッドなカラーリングや、懐かしくも新しいガジェットやメカのデザインに原初的な楽しさがあったが、ビシッとクールなアングルで決めて欲しいタイミングで緩くダレたアングルのカットが続いたりで、少しもったいないなと感じるシーンがいくつかあった。 MCU映画シリーズの展開としては、現在MCUで進行しているマルチバースサーガの大型クロスオーバーにして総決算Part1となる「アベンジャーズ: ドゥームズデイ」の公開が2026年12月と近づいてきているが、今作で登場したキャラクター達がどのような形でそこへ参加していくのか、どんな物語が展開するのかが楽しみだ。 期待通りの面白さ、だと長年のファンとしては寂しいので、期待を越えてほしい… できれば大きく越えてほしい。 https://filmarks.com/movies/104530/reviews/200963381

  • ケナは韓国が嫌いで | Because I hate Korea (2024)

    3.2/5.0 韓国の小説家チャン・ガンミョンによる同題の小説を原作とする、ヒューマンドラマ。 ポン・ジュノ監督の「グエムル -漢江の怪物-」に子役として出演していたコ・アソンが主演を、韓国映画界で注目されているチャン・ゴンジェが監督と脚本を担っている。 主人公は真面目に大学を卒業し大手企業で働くが、韓国の文化や習わしに生きづらさを感じ、仕事のやりがいや将来への希望を見いだせず、自身が生まれ育った国を離れニュージーランドに移住することを決意する。 韓国映画といえば、感情と肉体の激しいぶつかり合いやサスペンスフルな心理描写と駆け引き、またはハリウッドにも引けを取らないスペクタクルもしっかりといったイメージがあるが、今作にはそういった内容がほとんど含まれていない。 その代わりに、現代の韓国に生きるひとりの若者のリアリティを冷静な視点と距離から切り取るような演出が光っている。 映画的な起伏が少なく淡々とした作劇であるともいえるが、俳優達の繊細な感情表現や、レイアウトが美しく印象に残るアングルがあり、物語に惹き込まれる。 韓国の若者を主人公として、その逡巡が丁寧に描写されているが、この作品が描いているものは、韓国にとどまらず様々な国の若者たちが抱えている「(何となく) 生きづらい」という曖昧な感情なのだろう。 自分自身もかつて同じことを感じながら鬱屈と働いていたことがあり、その頃が思い出されて苦い気持ちになった。 なんなら、歳を重ねた今でもその感情を完全には払拭できていないかもしれない。 三幕構成と大団円で物語が完結する映画のようには、私達の人生の脚本は用意されていない。 でも自分自身の物語だから、岐路に立つ度に自身が選択し、歩き続けなければいけない。 いつか幸せな場所へたどり着けるかは分からないが、人生の旅を続けない限り、それを見つけることはできない。 物語の山場や結末のカタルシスがほとんど存在しないため、自分好みの作風の映画ではないなとは感じたが、不思議で独特な読後感が残る作品でもあった。 私がこの映画で描かれているテーマに強く共鳴できる世代ではなくなっただけで、主人公と同世代の若者達には響くところが多い作品なのではないか。 https://filmarks.com/movies/112843/reviews/200960684

  • 映画コラム: お役に立てれば幸いです | One is glad to be of service

    「アンドリューNDR114」というSF映画が大好きだ。 原題は「Bicentennial Man (二百歳の男)」で、 原作小説はSFの巨人、アイザック・アシモフ。 (これ以降に映画と小説のネタバレがあるのでご注意ください) 人間に奉仕するために生まれた (製造された) アンドロイドが、 少しずつ個性とものづくりの才能を発揮しはじめて、人間として生きることに憧れ、 努力し続ける話だ。 主人公の「アンドリュー」ことNDR114を演じるのは、ロビン・ウィリアムズ。 すっとぼけた顔でドジも踏みまくるこのアンドロイドの、仕事の後の決まり文句は、 「お役に立てれば幸いです (One is glad to be of service)」 いつもの過剰に陽気なコメディアンの演技はずいぶん抑えられていて、 (ステレオタイプなアンドロイドなので激しく動くのも無理だし) でもやっぱり ロビン・ウィリアムズにしか表現できないお茶目さが演技のそこかしこに溢れている。 彼が主演した数々の映画の中では、この作品はとてもマイナーな方だけれど、 私にとっての最高のロビン・ウィリアムズは、この映画の彼だ。 人間として認められることを目標に、 見た目も心も少しずつ人間に (生身のロビン・ウィリアムズに) 近づいていくアンドリューのひたむきな姿に、しんみりとした感動を覚える。 人間として生きることとは、仕えた家族の皆がそうだったように 歳を重ね老いて死ぬことでもあると考えたアンドリューは、 アップデートさせ続けた自分の身体に「老衰」の機能まで取り入れて、 自身を人間と認めてくれるよう、人類に訴える。 そうやって努力し続けた彼が、最期に自分の「人生」を振り返り、 精一杯生きた日々に満足して死 (機能停止) を受け入れようとする時、 人類は彼を人間として認めることが世界に発表される、という物語だ。 ロビン・ウィリアムズはそのコメディアンとしての卓越した才能で、 世界中の人々に笑顔をもたらしてくれた。 ただその一方で、アルコール依存症を患って心を病んだり、 すごく真面目に慈善団体の支援に力を注いでいたりもした。 悲しいこと辛いことをたくさん経験しているからこそ、 笑うこと、笑えることの大切さも身に染みて分かっていたのではないか。 そして幸せな日々への憧れも強かったのではないだろうか。 彼のむちゃくちゃに笑える演技をもう観られないのは寂しい。 そして彼がアンドリューと同じように安らかな最期を迎えられなかったことが、 とても悲しい。 でもきっと彼はアンドリューと同じく、 人間として立派に生きることを必死に考え続けながら、 精一杯、全力で彼の生涯を生き抜いたのだろう。 それは間違いなく素晴らしい人生だったのだろう。 本当に人間らしい、光と影のある人生を送ったのだろう。 不完全ではあってもよく生きようと努力し続けること、 むしろその不完全なところにこそ人間の価値があるのだと この映画から教わったように思う。 彼が遺してくれた映画の中で彼はずっと生き続け、 これからもずっと、これから生まれる人たちも含めて、 たくさんの人々の心の支えとなっていくだろう。 「お役に立てれば幸いです」 幸せにしていただいたのは私の方です。

  • ブルース・ブラザース | The Blues Brothers (1980)

    4.5/5.0 コメディアンのジョン・ベルーシとダン・エイクロイドが米国のTV番組「サタデー・ナイト・ライブ」内で演じたキャラクターをもとに2人が主演するミュージカル・コメディとして映画化された作品で、マイケル・ジャクソンの伝説的ともいえる「スリラー」のミュージックビデオを手掛けたジョン・ランディスが監督を担っている。 孤児院で育てられ立派なろくでなしとして成長したブルース兄弟が、その孤児院の閉鎖の危機と救済のために大金が必要なことを知り、「神の啓示」を受け、自分達が活動していたバンド「ブルース・ブラザーズ」を再結成し、かつてのバンドメンバーと資金集めのために奔走するという物語。 何よりも、数々のミュージカルシーンの完成度が素晴らしく高い。主演の2人の歌唱力と演技力はもちろんのこと、R&Bやソウルの伝説クラスのアーティスト達の歌唱と演技が大変に魅力的で、その何もかもが楽しい。 ジェームズ・ブラウン、キャブ・キャロウェイ、アレサ・フランクリン、レイ・チャールズ、他多数… これほどまでに豪華な共演は二度と実現しないのではと感じるほど。 多数の出演者を的確にアンサンブルとして構成し写し取るジョン・ランディス監督の演出力もキレキレに冴え渡っている。 ミュージカルパート以外では、ド派手を通り越してどう考えても過剰過ぎるカーチェイスアクションが印象的。 そして兄弟をつけ狙う「謎の女」として要所に登場するキャリー・フィッシャー (「スター・ウォーズ」のレイア姫を演じた俳優といえば知らない人は少ないだろう) が巻き起こす破滅的なカオスも面白い。 劇場公開から半世紀近い時を経てもなお、音楽映画の金字塔として愛され続けていることにも納得できる、自分にとって宝物のような作品。 https://filmarks.com/movies/38327/reviews/152633856

  • アガサ・オール・アロング | Agatha All Along (2024)

    3.5/5.0 マーベル・スタジオが製作・展開するマーベル・シネマティック・ユニバース (MCU) のドラマシリーズで、「ワンダヴィジョン」の脚本と製作総指揮を担ったジャック・シェイファーが今作の原案・脚本・監督・製作総指揮を続投している。 「ワンダヴィジョン」に登場し、同作で魔法の能力を奪われた魔女が主人公で、その能力を取り戻すために「魔女の道」を行くという物語。 全9話を鑑賞することで、第1話から大量の伏線が脚本に組み込まれていたことが分かり、物語の全貌が最後に明らかになるという緻密な構成がとても面白いのだけれど、中盤の第6話ぐらいまでは伏線ありきに感じる唐突な台詞やちぐはぐに感じるシーンの繋ぎ方が目立ち、それがややノイジーで物語に没入しにくかった。 この違和感の正体と本当の意味は後で分かるのだろうというワクワク感はありつつも、あまりにもそれが多過ぎるというか、伏線を重視するあまり主軸となる演出が少しとっ散らかってしまっているような… 劇中に何度か形を変えて登場する楽曲「魔女の道のバラッド」は一度聴いたら忘れられないほど印象的で耳に残り、この歌が物語全体の軸にもなっているところも新鮮だった。 この歌のルーツや、魔女たちの間でどのように歌い継がれてきたのかの真相が後半で明らかになるのだけれど、その内容には驚きがあり、かつ感動的でもあった。 他のMCU作品と比べると派手なVFXがかなり少なく、製作予算も他作品より控えめだったらしいけれど、それぞれ個性的な俳優達による人間 (魔女) ドラマが物語をしっかり牽引していて、退屈することはない。 主人公と因縁がある緑の魔女を演じたオーブリー・プラザの存在感は特に際立っていて、この役を通じてさらに有名になるのではないかと感じた。 拡張していく一方のMCUの世界には、超科学、宇宙人、人工生命、神と悪魔、海底人、魔術師、ミュータントまで存在しているが、魔女や魔法の歴史も本格的に描かれて、いよいよ際限がない。 今作は他のMCU作品の事前鑑賞が強く求められる内容にはなっておらず、魔女たちの物語として楽しむこともできるようにはなっていたが、それでも今作の主人公が初登場する「ワンダヴィジョン」を観ていなければ導入の部分で主人公の動機の理解がやや難しいだろうし、「ワンダヴィジョン」を鑑賞するにはその主人公のワンダとヴィジョンが登場するさらに前のMCU映画を鑑賞しないと訳が分からないだろう。 作品ごとにジャンルやタッチが大きく変わるそれぞれの映画やドラマを同一宇宙での出来事として設計するMCUの挑戦には高い価値があると思うが、さすがにちょっとその設計に綻びが目立ってきてしまっているようにも感じ、ファンだからこそ心配になってしまう。 今作で登場した魅力的なキャラクターは、今後のMCU作品でも活躍するのだろうか? 期待して待ちたい。 https://filmarks.com/dramas/11503/15955/reviews/15982534

  • イエスタデイ | Yesterday (2019)

    4.5/5.0 あるアクシデントをきっかけに、世界で最も有名なロックバンドといえるビートルズが存在しない別の現実世界へ迷い込んでしまったしがないミュージシャンを主人公にした、ファンタジー映画。 「トレインスポッティング」や「スラムドッグ$ミリオネア」を手掛けたダニー・ボイルが監督を担っている。 自身のオリジナル曲でスターになることを目指すも挫折しかけていた主人公が、ビートルズという偉大な存在を覚えているのは自分だけという世界で、彼らの作品を自分のものと偽ることで成り上がっていく過程が、誰でも一度は聴いたことがあるであろうビートルズの楽曲達を用いながらテンポよく描かれていき、ダニー・ボイル監督の非凡な演出センスをじっくり楽しめる。 それぞれの楽曲の歌詞と主人公のその時々の心情が重なるところも、古典的な手法ではありながら、とても面白いと感じた。 同監督の他作品と比較すればややマイルドなテイストかなとは思うけれど、この作品の脚本と物語にはマッチしている。 主人公のミュージシャンを演じるヒメーシュ・パテルと、その幼馴染を助演するリリー・ジェイムズの演技が全篇を通じてとても愛らしく、純朴な2人が劇的な変化に巻き込まれ苦しみながらも重大な決断をするに伴い生まれる心の痛みに、大きく共感してしまった。 単純にドタバタなラブコメディとして鑑賞することもできるけれど、この映画の主人公のように何かオリジナルなものを自分で生み出して名を成したいと願いつつも挫折や苦闘した経験がある人ならば、主人公の心情に共感できる部分がとても多いのではないか。 ビートルズがもし存在しなかったら、私達が知っている歴史にどんな副次的な影響や変化が生じるのかといったSF視点のウィットが脚本に組み込まれていて、言われてみれば確かにそうかも知れないねと感じるネタが多く、物語の本筋ではないところではありながら笑ってしまうシーンがたくさんあった。 それに加えて、現実世界における現代のスーパースターともいえるあるミュージシャンが本人役で出演しており、かつかなり重要な役どころを担っていて、そのノリの良さと懐の広さに驚かされた。 主人公が最後に大きな決断するきっかけとなる助言をする、ある人物が登場するシーンでは、言葉ではなかなか形容しがたい感情と涙が溢れてしまった。 ビートルズが存在しなければその影響で失うものが山ほどあるけれど、誰もが知っているあの悲劇も存在しなくなるはず、だとすれば彼は今もあり続けたかも知れないという脚本のツイストに、喪われたものへの想いが込められていて、素晴らしい。 SF的なセンス・オブ・ワンダーと、もしかしたらこんな現実もあり得たのかもと空想することの原点的な面白さを思い出す、とても価値のある映画体験だった。 https://filmarks.com/movies/82978/reviews/184886429

  • グレースフィールド・インシデント | The Gracefield Incident (2017)

    1.8/5.0 カナダ製作のSF x ファウンド・フッテージスタイルのホラー映画で、監督・脚本・製作・編集・主演という驚異の5役をマチュー・ラザというクリエイターが担っているとのこと。 グレースフィールドにある別荘に赴いた3組の男女カップルが異常な現象に遭遇するというシンプルな物語なのだけれど、これまで数多製作されてきたファウンド・フッテージものとの違いといえば、今作の映像を撮影したカメラは主人公の義眼の中に組み込まれた小型カメラという設定であるところ。 ただ、主人公以外の登場人物が持っているカメラが撮影したというテイの映像とも頻繁にスイッチするし、それについて納得がいく編集上の理由も特にないので、義眼カメラという設定自体に果たして意味があったのか? というツッコミの気持ちを多くの人が持ちそう。 また、ファウンド・フッテージものといえば、あくまでも「実際に撮影・収録された事件の映像と音声」という前提でフィクションを楽しむという約束事があるのだけれど、この作品はどう考えても後づけ編集にしか聞こえない効果音がド派手かつ頻繁に鳴り、演出のスタンスが終始ブレてしまっているなぁと感じる。 物語の基本的な展開としては、異常現象が発生、必死に逃げる、次の現象が発生、逃げる… の繰り返しで、特に中盤では変化に乏しい演出にダレてしまう。 面白いと感じたのは異常現象についての描写の強度で、チラ見せばかりで結局何が起きているのか分からないといったフラストレーションはほぼなく、かなりハッキリとした「怪異」が映り込むところが少し新鮮。 ただ、終盤での種明かし (なぜ主人公達が異常現象に巻き込まれたのか、を含む) については、序盤にあった伏線回収的な内容にはなっていつつも、いくら何でもそんなわけあるかと笑ってしまった。 SF好きの自分としては駄作とまでは言いたくないけれど、決して誰かにおすすめできる作品ではないなとも感じてしまった。 https://filmarks.com/movies/74976/reviews/200746452

  • イヤー・テン | Year10 (2022)

    3.3/5.0 イギリス製作のポストアポカリプス映画で、今作が初の長編作品となるベン・グッガーが監督を担っている。 何らかの理由で文明が崩壊して10年が経過し、かろうじて生き残った僅かな人間たちは、極少人数単位でそれぞれ過酷な生活を送っている。 主人公の青年は父とともに生活拠点を離れ食料確保のために探索するが、暴力的な集団と遭遇し… という形で物語が展開する。 主人公とその父と共に暮らしてきた主人公の恋人の命が危ぶまれる状況で、青年は危険な旅に出る。 この映画にはいくつか特徴があるが、最も分かりやすいのは、劇中の登場人物達全員が台詞を一切発しないこと。 その理由についての説明すらないので鑑賞する側が推測するしかなく、聴覚が優れた野生動物達との共存が否応なく求められる環境で、発声する行為が禁忌となったのだろうか… とか、そもそも文明が崩壊した世界において、言語のコミュニケーションは不要になってしまったのだろうか… といった、SF視点の面白さはある。 台詞がないため、登場人物達の名前も分からないし、そもそも役名もない。 あるのは映像・劇伴・そして俳優達の身体演技だけで、未来の話ながらVFXすらほぼ全く使わないというストイックな演出には、珍しさと面白さがある。 ただ、何だか色々惜しいなぁ… と感じてしまった部分もいくつかある。 ひとつは、山間部の雄大なロケーションを舞台にしながらも、スケール感のあるカットや静謐を感じるカットがあまりなく、勿体ないと感じること。 もうひとつは、どの登場人物もリアリティを欠くほど不注意で油断した行動が多く、過酷な環境を生き伸びてきた人間達という設定の説得力が弱いと感じたこと。 とはいえ、多くを語らないことで想像の余白が生まれる設定の斬新さはあるし、キャラクターアークの変遷も描かれていて、個性的なSF (ただし大自然100% / VFXほぼ0%) の佳作として楽しむことができた。 https://filmarks.com/movies/120095/reviews/200412782

© 1998-2025 Shoji Taniguchi

Kazari
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