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  • スター・ウォーズ / マンダロリアン・アンド・グローグー | Star Wars: The Mandalorian and Grogu (2026)

    3.7/5.0 ジョージ・ルーカスが創造した超有名スペースオペラ映画シリーズのスピンオフとしてDisney+で配信された実写ドラマ「マンダロリアン」の劇場版。 ルーカスの最後の愛弟子でありその意思とビジョンを継ぐ者といわれるデイヴ・フィローニが脚本と製作を、フィローニと共にスター・ウォーズの数々のドラマシリーズの製作総指揮を務めてきたジョン・ファヴローが監督を担っている。 銀河帝国が反乱軍に打ち破られて崩壊し、まだ政情が安定しない時代。 厳しい掟に従って生きるマンダロリアンのディン・ジャリンと、まだ子どもながら50歳という長命種族のグローグーは、賞金稼ぎとして新共和国軍の依頼に応えることで生計を立てていた。 帝国の復権を狙う存在を察知した新共和国軍は、それを防ぐために2人へ新たな依頼をする。 スター・ウォーズといえばライトセーバー、ジェダイナイト、シスの暗黒卿、そしてフォースといった数々の神話的要素と、埃や汚れにまみれて生活感が感じられる宇宙船や戦艦というSF要素が掛け合わさった唯一無二の世界観が特徴だが、今作にはフォースを除いた前者の要素がほとんど出てこず、ほぼ純粋なSF活劇として描かれている。 ドラマシリーズで参照されていた「子連れ狼」等の時代劇や西部劇の要素は今作でも引き続き感じられつつ、良くも悪くもドラマ版の超拡大スペシャルといった趣。 脚本の展開に退屈するところはなく、次から次へと舞台が切り替わり、映画版ならではのダイナミックな演出もたくさんで、自分のようなスター・ウォーズファンには嬉しいメカやキャラクター達も多数登場してワクワクする。 ただ、映画単品としての完成度は十分に高く楽しめるものの、それと同時にスピンオフの限界も感じてしまったというのが正直な気持ち。 ディンとグローグーの物語にはまだまだ拡張の可能性がありそうだけれど、どこまで突き詰めても、よくできたSF冒険活劇の域を出ないのではないか。 主人公がそもそもジェダイではなく、いわゆる映画正伝 (エピソード4から始まった9部作) とは違う扱いなので仕方ない部分もあると分かりながら、それによって避けがたく発生する神話性の欠落は、スター・ウォーズという物語を構成する決定的な要素の不在に感じてしまった。 シークエル (J.J.エイブラムスが始めたエピソード7から8, 9までの3部作) が中盤ぐらいからぐらつき始めて有終の美を飾れなかったことから、ルーカスフィルムは「マンダロリアン」をはじめとするスピンオフに活路を見出して様々なシリーズを展開しているけれど、そろそろまた正伝に向き合ってくれないかなと感じているスター・ウォーズのファンは、自分だけではないように思う。 超巨大フランチャイズで失敗が許されないプレッシャーから足踏みが続いているのだろうけれど、良質ながら無難で再生産的な作品がずっと続くよりは、例えまた評価が割れようとも、挑戦的で革新的で、何よりも神話性をまとった正伝が観たいなぁ… スター・ウォーズは自分にとって本当に特別で、いちばん思い入れがある映画シリーズだから。 https://filmarks.com/movies/114240/reviews/218005748

  • ザ・ボーイズ ファイナル・シーズン | The Boys Season 5 (2026)

    3.2/5.0 エリック・クリプキが企画・製作総指揮を担うSFドラマ「ザ・ボーイズ」の最終シーズン。 DCやMARVEL等のスーパーヒーローものと現代社会を痛烈に風刺した同題のコミックを原作としつつ、ドラマ独自で展開してきた物語の完結篇。 巨大企業の管理下にあるスーパーヒーロー達が実は腐敗していて社会を揺るがす脅威となり、特殊能力を持たない一般人達がその打倒のために無謀な闘いを挑むという物語が遂に最終局面を迎える。 最強のヒーローでありながらその幼稚過ぎる頭脳で傍若無人に振る舞うホームランダーは、文字通りの神として米国に君臨しようとする。 ホームランダーへの復讐に命をかける「ザ・ボーイズ」のリーダー、ブッチャーは、スーパーヒーロー全員に死をもたらすウイルス兵器を完成させる。 シーズン1 第1話の衝撃的な開幕から強烈に心を掴まれ、毎シーズンが配信される度に鑑賞してきたドラマシリーズだったけれど、シーズン4あたりから少しずつその脚本や展開に綻びが目立つと感じてきた。 それでも今回のティザービジュアル達にはとてもワクワクして、最終シーズンにふさわしい怒涛の展開や圧倒的な結末が観られることを期待したものの、本当に必要だろうかと感じてしまう緊張感のないエピソードがあったり、スピンオフシリーズの「ジェン・ブイ」で登場し今回本篇に合流した魅力的なキャラクター達の役割がどうにも中途半端だったりで、少しガッカリしてしまったというのが正直なところ。 何より、ティザービジュアルで描かれていた風景が本篇には一切登場しないという、ティザー詐欺のようなプロモーションは良くない。 ヒーロー達の象徴ともいえるタワーが崩落するシーンはないし、壊滅する街をホームランダーが宇宙から見下ろすシーンもない。 ホームランダーとブッチャーの因縁にはしっかり決着がつき、カタルシスもあるけれど、そのスケールはとても控えめで、ダイナミズムにも欠けていた。 主人公のヒューイが愛してやまないビリー・ジョエルの名曲 (特にその歌詞) がフィーチャーされるシーンでは不意打ち的にすごく感動してしまったけれど、それは奇遇にも自分がヒューイと全く同じく、子どもの頃から今に至るまでジョエルの歌を聴き続けてきたからで、それほど思い入れがない鑑賞者にはあまりピンとこないかもしれない。 エリック・クリプキはインタビューで「ゲーム・オブ・スローンズのように、最終シーズンの数話の出来が悪いだけで駄作だと言われることに恐怖している」「すごく慎重に、あらゆることを疑ってかかりながら、なんとかやり遂げた… んじゃないかな」といったことを語っているけれど、もしかしたら製作中から既に、この最終シーズンが鑑賞者の多くを満足させる内容に仕上がっていないことに製作者達自身が気づいていたのかもしれない。 本篇としての「ザ・ボーイズ」はひとまず完結しつつ、その前日譚である「ヴォート・ライジング」や、舞台となる国を変えての「ザ・ボーイズ: メキシコ」の製作が進行中とのことだけれど、本篇がやや尻すぼみ的に完結してからの盛り返しは、果たして成功するだろうか。 https://filmarks.com/dramas/5020/23171/reviews/21945006

  • プロジェクト・ヘイル・メアリー | Project Hail Mary (2026)

    4.3/5.0 「火星の人 (The Martian)」で一躍注目を浴びた米国の小説家、アンディ・ウィアーによる小説を原作とするSF映画で、「スパイダーマン: スパイダーバース」の製作・脚本を手掛けたフィル・ロード & クリス・ミラーが監督を、「ブレードランナー 2049」や「ファースト・マン」で主演したライアン・ゴズリングが主人公を演じている。 主人公が目覚めると、自分が記憶を失っていることに気づく。 そこは地球から約12光年も離れた場所にある宇宙船の中で、同乗したとみられるクルーは既に死んでいた。 主人公は自分が何者だったのか、なぜ宇宙船に乗り込むことになったのかを思い出そうとする。 そして、太陽の温度が謎の現象によって低下し、人類が数十年内に滅亡する危機にあるという記憶がよみがえってくる。 その回避方法発見のため孤独な探索を続ける主人公は、人類文明によるものではない宇宙船を発見する… 回想シーンで描かれる地球での日々以外の宇宙パートのほぼ全部がライアン・ゴズリング (と、その相棒となる異星人) の芝居で構成されていながら、楽観主義と物悲しさの両方が感じられるゴズリングの演技と巧みな脚本構成に惹き込まれる。 現代のVFX技術がふんだんに使われながらもそれに頼りきらず、実物人形のアナログ操演で表現された異星人の演技が素晴らしく個性的。 異文明とのファーストコンタクトものとしてはやや緊張感に欠けるかもと感じられるものの、奇妙なコンビの奮闘を観ていてとても楽しい気持ちになる。 「ヘイル・メアリー (最後の神頼み)」として故郷から遥か遠くの宇宙へ送り出された2人のミッションがどのように決着するのか、原作小説を読了済ながら、映画を鑑賞していて久しぶりにドキドキしてしまった。 小説版と映画版で主人公とその相棒それぞれの感情の描かれ方にやや差異があるものの、映画という表現媒体への翻案としてはとても成功している作品だと感じた。 ロード & ミラーコンビの、ポジティブで笑えるけれど感情に強く訴えかけてくる演出の持ち味が最大限に発揮されている。 SFファンのみならず誰もがワクワクできる、とても高品質な大作SF映画といって間違いないだろう。 https://filmarks.com/movies/123582/reviews/217632832

  • テレビの中に入りたい | I Saw the TV Glow (2024)

    3.8/5.0 その個性的かつ内省的な作風で近年注目を集めているジェーン・シェーンブルンが脚本と監督を務めたA24製作のサイコホラーで、「ブゴニア」や「哀れなるものたち」主演の俳優エマ・ストーンが製作に携わっている作品。 物語の始まりは90年代で、現実世界に居場所がないと感じている主人公の少年は、深夜に放送されていた「ピンク・オペーク」という番組に強く惹かれ、あるきっかけから出会った少し年上の少女の家でそれを一緒に観ることになる。 少女から「好きなのは女子? それとも男子?」と聞かれた少年は、「テレビ番組が好き」と答える。 トランスジェンダー女性でノンバイナリという自身のセクシャリティを公表するジェーン監督だからこそこれほど高い解像度で描けるのだろうと感じる、周囲と自身の間にある溝や息苦しさが、少年と少女の視点を通して可視化されている。 現実逃避の一環として深夜にTVを観るという誰にでも一度は経験がありそうな行為から、自己認識の揺らぎとの向き合いといった哲学的なテーマへ大きく飛躍する物語の展開が面白い。 物語の本筋とは強く関連しないけれど、大胆な彩度および明度設計がなされたレイアウトやアングルにも惹き込まれる。 加えて劇伴も使われ方も印象的で、ジェーン監督が持つ非凡な演出センスを感じる。 ただ、これは意図してそうされているということは分かりつつ、全篇を通してメタファーが多用されており、何が真実で何がそうではないのかの境界線を明確に提示しないスタイルの演出なので、結局のところどういうことだったんだろう? と鑑賞後に感じる人が少なくないかもしれない。 主人公の少年が選択した生き方と、ラストシーンのいかんともしがたい物悲しさには、胸がとても苦しくなった。 ジェーン監督の作品には、今後も注目していきたい。 https://filmarks.com/movies/114067/reviews/217277017

  • トランスミッション 観てはならない結末 | Transmission (2023)

    3.3/5.0 英国出身のマイケル・ハーストが脚本・監督した実験的な作風のモキュメンタリホラー中篇。 様々なトーンの映像が交錯しながら物語が展開する、多重構造形式の作品。 ある老人が深夜にTVの電源を入れると、失われていたはずのSF映画が放送され始める。 「トランスミッション」というタイトルのその映画に登場する宇宙飛行士達は「虚空 (ヴォイド)」と呼ばれる現象の調査中に、長く行方不明となっていた宇宙船を発見する。 その船内に残されていた記録映像には、虚空からの謎の信号を受信してから乗組員達の様子がおかしくなっていったことが判明する… という導入。 70年代の懐かしいトーンを思い起こさせるSF劇中劇 (映画) を軸としながら、冒頭で登場した老人がTVのチャンネルをザッピングするように、その劇中劇製作にまつわるドキュメンタリや立てこもり事件現場からの生中継等の番組が映し出されるという、なかなか独特な構成となっている。 ネタバレは避けるが、断片的に感じられたそれらの映像群がやがてひとつの結末に収斂していく脚本は挑戦的で面白い。 粗が気になる部分があったりカタルシスがやや弱いところもありながら、もし今作のプロットと演出スタイルをベースにより緻密な脚本と上質な演出でリメイクされたら、とても個性的なSFホラーに化ける可能性があるのではないかと感じた。 どこからどう見たってジョン・ランディス監督の「遊星からの物体X (1982)」のドリュー・ストルーザンが手掛けた有名過ぎるメインビジュアルをオマージュしたとしか思えないメインビジュアルについ惹かれて鑑賞したが、SFファンとしては思わぬ拾い物だった。 https://filmarks.com/movies/125331/reviews/217074121

  • ビーキーパー | The Beekeeper (2024)

    3.4/5.0 「サボタージュ」や「フューリー」などを手掛け、重量感や緊張感のあるアクション演出に定評のあるデヴィッド・エアーが監督を担い、ハリウッドにおけるアクション映画ジャンルのスーパースターとして名高いジェイソン・ステイサムが主演する作品。 かつて機密の暗殺部隊で工作員として働きながら、その職を引退し養蜂家として暮らしていた主人公が、ある悲劇をきっかけに特殊詐欺集団への復讐を開始するという筋書き。 ジェイソン・ステイサムのハイレベルな身体演技とデヴィッド・エアーの重厚で安定した演出の相性が良く、次々と繰り広げられるアクションや物語の展開に気が散ることなく没入できる。 作品タイトルでもある「ビーキーパー (養蜂家)」について、序盤では主人公が現役引退後に選んだ実直な職業ということ以上の意味がないように見えて、中盤にその言葉の定義が変わる展開があり、やや強引でこじつけ感はあったものの、なるほどと楽しむことができた。 とはいえ脚本に捻りがあると感じたのはそこぐらいで、他は徹頭徹尾、勧善懲悪型のシンプルなアクション映画の佳作といった印象。 あれこれ深く考えずに安心して楽しめる、こういった作品の鑑賞もまた良いものだと感じた。 https://filmarks.com/movies/113065/reviews/195663162

  • ワーキングマン | A Working Man (2025)

    3.2/5.0 「フューリー」や「エンド・オブ・ウォッチ」等で知られるデヴィッド・エアーが脚本・監督し、シルヴェスター・スタローンが共同脚本と製作を担ったアクション映画。 「エクスペンダブルズ」シリーズでスタローンと長く共演してきたジェイソン・ステイサムが主演している。 建設現場で働く退役軍人の主人公は、同僚や娘の安全を何よりも大切にしながら生活している。 現場上司の一人娘が失踪し、主人公はその捜索をする中で、人身売買組織の存在に気づいていく。 エアー監督 x ステイサム主演の「ビーキーパー」を鑑賞したことがあるアクション映画ファンにはほとんど同じ映画に見えるのではと思うほど、直球で混じり気なしのステイサム映画。 ステイサムはもはやどの作品でもステイサム以外の人物には見えず、そういう言外の約束があるかのよう。 脚本からはスタローン独特の美学が感じられるがそれも僅かで、深く考えずに鑑賞できるB級映画といえる。 主人公が救いに向かう女性役が、ただ泣いたり叫んだりするステレオタイプな弱者としての描かれ方ではなく、脅威に対して勇敢に立ち向かう形で描かれているところは、現代的といえば現代的。 デヴィッド・ハーパーやマイケル・ペーニャといった有名俳優の脇役での起用とその扱いの小ささが謎に豪華で少し面白い。 鑑賞後に何か心に残るものもは特にないが気軽に鑑賞できる、今作のようなB級アクション映画にも存在意義はあるけれど、デヴィッド・エアー監督にはもう一段階上の硬派で重量級の映画を形にしてもらえたらな… と思ってしまう。 「スーサイド・スクワッド (2016)」を監督した際の (監督本人の発言によると) 辛い経験から、大規模な予算や体制による映画づくりと距離を置いているのかも知れないけれど… https://filmarks.com/movies/120627/reviews/216993265

  • ザ・モンキー | The Monkey (2025)

    2.9/5.0 「ロングレッグス」を手掛けたオズグッド・パーキンスが脚本・監督し、「ソウ」シリーズや「M3GAN/ミーガン」等で知られるジェームズ・ワンが製作に携わった、スティーヴン・キングの短編「猿とシンバル」を原作とするホラー映画。 ある男が手に入れたゼンマイ式の猿の人形は、太鼓を叩き始めると「誰かが理不尽な死を迎える」という呪物だった。 その人形を遺品として受け継いだ主人公とその双子の兄弟の周囲で、不審死が連続発生していく。 主人公は人形を捨てたり破壊しようと試みるが、それは逃れられない呪いであることが分かってくる。 ジェームズ・ワンらしいショッキングかつポップな画づくりと、ホラージャンルの監督で注目されるオズグッド・パーキンスの個性が掛け合わさった演出は斬新で、恐怖するというより笑ってしまいそうになる様々な死に方が描かれる。 ほんの数分だけ出演しているイライジャ・ウッドの演技づけが奇妙で、他の俳優も程度の差はありながらどこか居心地の悪い読後感が残る存在として演出されている。 パーキンス監督にはやや独特でブラックなコメディのセンスがあるのかも知れない。 ただ、短編の原作内容に準拠しているとはいえ、物語にあまり起伏がなく、ひたすら困り顔の主人公の近辺で誰かが死ぬことが繰り返される展開に終始していて、脚本としての広げ方が少し弱いようにも感じた。 面白くなかったかといえばそんなことはないけれど、スティーヴン・キング原作の他のホラー映画と比較すると、やや見劣りする作品。 https://filmarks.com/movies/119972/reviews/216983104

  • 哀れなるものたち | Poor Things (2023)

    3.7/5.0 「女王陛下のお気に入り」や「聖なる鹿殺し」等を手掛けたギリシャ出身の鬼才監督、ヨルゴス・ランティモスによる超現実的なドラマ映画で、英国の作家アラスター・グレイによる小説の一部を原作としている。 ウィレム・デフォーが演じる異形の外科医の保護下にあって、出生に大きな秘密を持つ知能未発達の成人女性をエマ・ストーンが演じており、無垢の象徴ともいえる主人公の彼女が世界を知りながら人間として成長 (あるいは変化) していく過程がじっくり描かれる。 作品のテーマを現代社会の空気に照らし合わせて解釈するならば、女性の自立や男性依存からの脱却という、いわゆるフェミニズムについての映画といえるだろう。 ただ、説教くさい台詞やあからさまな演出があるわけではなく、あくまでも寓話的な脚本にテーマが織り込まれながら物語が展開していくので、その主張の強さに引いてしまうような歪さはない。 脚本やテーマはいったん横に置くとして、この映画では俳優達の凄まじい力量を全篇に渡って鑑賞できる。 主人公を演じるエマ・ストーンによる文字通り全てをさらけ出した演技はもちろん、その主人公に夢中になる弁護士を演じたマーク・ラファロによる人間の自堕落の表現に、俳優としての凄みを感じた。 また、主人公を含む登場人物達が纏う衣装のデザインや舞台美術には大胆さとクラシカルな美しさが共存していて、シーンが変わる度にハッとさせられる視覚の力がある。 加えて、安易にはそのスタイルを盗めないレベルの高度なアングル設計や魚眼レンズを用いた独創的な撮影技術も素晴らしい。 特に、舞台が切り替わる際に数秒間だけ入る扉画には、アートディレクションの伝統と革新が共存する美しさがあり、一見の価値がある。 他にも素晴らしいと感じたところをあげようと思えばキリがないけれど… 総じて、ジャン=ピエール・ジュネの「ロスト・チルドレン」を初めて観た時のような、視覚的な衝撃を受けた。 金獅子賞・ゴールデングローブ賞・アカデミー賞等の主要な国際賞にて様々な部門にノミネートされ受賞したことにも納得できる。 ウェス・アンダーソン、ジョナサン・グレイザー、アレックス・ガーランドといった映画監督達と並び、強烈な作家性と確固たるアートディレクションの能力を兼ね備えた最重要監督のひとりとして、ヨルゴス・ランティモスがこれからも注目され続けることは間違いないだろう。 ただ、映画が持つ芸術的観点での評価と、作品として単純に面白いかつまらないかという観点での評価は、必ずしも常に比例するものではなく、少なくともこの作品においては別のものとして考えた方がいいのかも… という読後感でもあった。 https://filmarks.com/movies/109937/reviews/185944690

  • エイペックス・プレデター | Apex (2026)

    3.1/5.0 自然 x サバイバルな映画を手掛けてきたアイスランド出身のバルタザール・コルマウクルによる、NETFLIX配信のサバイバルアクション。 「マッド・マックス 怒りのデスロード」や「アトミック・ブロンド」へ出演してきたシャーリーズ・セロンと、「キングスマン」シリーズの主演で知られるタロン・エガートンという、2大アクション俳優が出演。 主人公の女性は、クライミング中の事故でパートナーを失い、そのトラウマを抱えたまま日常生活へ戻れずに過ごしている。 辛い過去から逃れたい思いから訪れた荒野にて、一見親切だが不審に感じる男と遭遇する。 物語はとてもシンプルで、厳しい大自然を舞台にした人間 vs 人間のサバイバルが描かれる。 主人公を演じるシャーリーズ・セロンの衰えを知らないフィジカルアクションは見どころがあり、それを殺人鬼としてハントする役のタロン・エガートンは、そのアクションだけではなく、これまで多く演じてきたヒーロー役とは真逆の狂気に染まった悪役を演じており、俳優としての新境地を感じた。 ただ、物語の結末まで退屈したり粗が気になったりはしなかったものの、特筆すべき展開があるわけでもなく、冒頭で提示されたトラウマを終盤のクライマックスで払拭するという、良くも悪くも型通りの筋書きで、うーんという読後感ではあった。 2大俳優のアクションを存分に楽しめばいいじゃないという風にも思うけれど、それにしてはアングルやカメラワークがやや凡庸で、せっかくならもっとダイナミックな画が観たかったなぁという気持ちになる。 とはいえ、相当な製作予算が割かれたであろうことが分かる全体的な画づくりの品質や、主演2名の身体演技レベルの高さは、観て損はしないといえる。 https://filmarks.com/movies/126670/reviews/216835387

© 1998-2026 Shoji Taniguchi

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