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- じゃりン子チエ | Chie the Brat (1981)
4.1/5.0 はるき悦巳による同タイトルの漫画作品を原作とするアニメーション映画で、スタジオジブリへの参加以前の高畑勲が監督を担っている。 原作者のはるきが生まれ育った大阪・西成の街を舞台に繰り広げられる、ドタバタな人情物語。 今作の脚本は原作漫画の複数のエピソードをもとにしてあり、同じ舞台で起きるいくつかの短い物語が緩やかにつながったアンソロジーのような構成になっている。 主人公のチエは小学5年生で、同学年の友人やクラスメイトも登場するが、描かれる物語の中心はその周辺の大人達の悲喜こもごもであるところが特徴的。 父親のテツ・母親のヨシ江・祖母の菊・本名不明な祖父といった家族から、テツの悪友や裏社会で生きるチンピラ、そして人間並の知性を持つ猫達まで、全てのキャラクターが立っていて面白い。 また、自然な大阪弁を話せる声優を起用したいという高畑監督の意向のもと、今や伝説級ともいえる関西芸人・落語家・俳優達が多数起用されている。 中山千夏、西川のりお、上方よしお、芦屋雁之助、三林京子、京唄子、鳳啓介、桂三枝、笑福亭仁鶴、島田紳助、松本竜介、オール阪神・巨人、ザ・ぼんち、横山やすし、西川きよし… すごすぎる。 そして、画に台詞をあてるアフレコ方式ではなく、台詞を先に収録しその呼吸に合わせて画をあてるプレスコ方式が採用されていることもあり、どぎつくもイキイキしてテンポが良い大阪弁の会話劇を存分に楽しめる。 原作漫画のファンだった自分は、漫画を読む時に頭の中でイメージしていたそれぞれのキャラクターの声やリズムとの違和感が全くなく、本当に驚いた。 原作漫画もこのアニメーション映画も、主人公の明るいキャラクターや軽快なリズムの話運びがありながら、教科書的な生き方ができない不器用な人間達の哀しさ、愛おしさ、そしてしょうもなさ、が描かれている。 傷や欠点のない人間なんていないのだ、だから私達はぎこちなくも寄り添ったり離れたりしながら支え合い、日々のパトスをドタバタで覆い隠すように生きるのだ。 チエが疲れて眠っている間に交わされるその父のテツと母のヨシ江の短くも切ない会話のシーンに、今作に通底するテーマが象徴されている。 https://filmarks.com/movies/10134/reviews/152664841
- ジャックは一体何をした? | What Did Jack Do? (2017)
3.7/5.0 惜しまれながらも2025年1月に逝去した「カルトの帝王」ことデヴィッド・リンチによるモノクロ短篇。 ほとんどのシーンがリンチ自身が演じる刑事とその刑事に尋問されるジャックという猿の会話で構成されており、17分程度の短篇ながら、奇妙で不条理なリンチワールドを体感することができる。 殺害容疑をかけられた猿のジャックは (口元だけ人間の口が合成されていて) 喋ることができ、刑事との対話がいちおう成立しているのだが、その内容のほとんどが哲学的な言葉だったり解釈不能な単語で構成されていて噛み合わず、会話劇としての展開を理解することが極めて難しい。 誰もが理解できるような物語を作ることなどはなから興味がないと突き放されているように感じられながら、鑑賞者はその意味を深く考えてみたくなったり、ついていけないという絶望的な感覚そのものを楽しんだりできる、これぞリンチ作品ともいえる魅力が存分に詰まっている。 映画/ドラマのクリエイターとしてはもちろん、俳優としても素晴らしく魅力的だったリンチがもうこの世界にいない事実がとても悲しいが、リンチが遺した奇妙な作品達のそれぞれ唯一ともいえる価値は、これからもずっと孤高のものであり続けるだろう。 https://filmarks.com/movies/88735/reviews/194882276
- ローグ・ワン / スター・ウォーズ・ストーリー | Rogue One: A Star Wars Story (2016)
4.4/5.0 誰もがそのタイトルを聞いたことがあるであろう有名なSFシリーズ「スター・ウォーズ」の初スピンオフとなる映画で、2025年時点で全9部作の映画本篇のうち「エピソード4/新たなる希望 (1977)」に直結する物語。 「GODZILLA (2014)」や「ザ・クリエイター/創造者 (2023)」のギャレス・エドワーズが監督を、「ボーン・シリーズ」のトニー・ギルロイが脚本を担っている。 ファンタジーとSFが融合したスペースオペラな世界観の「スター・ウォーズ」に、戦争映画としての演出テイストを加えるため、ギャレス監督は実際の戦争記録の写真等を集め、それを参照しながら撮影に臨んだという。 ライトセーバーやフォースを使うジェダイやシスが中心的な登場人物となる本篇と違って、今作の主要登場人物はみな超人的な能力を持たない一般市民 (反乱軍) ということもあり、これまでのシリーズとは違った戦争の血生臭いリアリティが感じられる。 フェリシティ・ジョーンズが演じる主人公の哀しい生い立ちの物語には惹き込まれ、そのキャラクターアークの描き方も完成度が高く、戦乱の世にあって「持たざる者達」がどのように自身の生と死の価値を見出すかというシリアスなテーマがしっかり描かれている。 主人公だけでなく、主要登場人物の全てにそれがあり、これまでのシリーズでは「その他の人々」といった背景画としてしか描かれなかった多数の人間達の全てにかけがえのない人生がある/あったのだという重厚な物語性を感じとることができる。 今作で重要なキャラクターとして登場する反乱軍の情報将校「キャシアン・アンドー」を演じるディエゴ・ルナを主人公として、スピンオフのさらなるスピンオフとなるドラマシリーズが製作されているが、今作で提示・確立された「持たざる者達の闘い」の描かれ方がさらに重厚になっていて素晴らしい完成度なので、今作を面白いと感じられた方にはおすすめしたい。 公開直前になって超大量の再撮影・編集が行われたらしく、予告篇で観たカットと本篇のそれが全然違っていて比較すると面白かったり、クレジットとしては脚本担当のトニー・ギルロイが本篇後半の実質的な監督まで担っていたといった裏話もあるけれど、作品の評価はあくまでも作品の内容だけでされるべきだと考えるので、製作現場はきっとプレッシャーで大変だったのだろうなぁという感想にとどめたい。 「スター・ウォーズ」シリーズの大ファンとしては、スピンオフやそのスピンオフといった派生作品も楽しく鑑賞しつつ、トラブル続きでなかなか進まない本篇的な映画作品の公開はいつになるのかな… というもやもやがずっと続いているけれど… https://filmarks.com/movies/61839/reviews/152617791
- エレクトリック・ステイト | The Electric State (2025)
3.9/5.0 スウェーデンのイラストレーター、シモン・ストーレンハーグによるビジュアルブックを原作に、マーベル映画「キャプテン・アメリカ」シリーズの脚本を手掛けたスティーヴン・マクフィーリー、クリストファー・マルクスと、同じくマーベルの「アベンジャーズ / エンドゲーム」等の監督を手掛けたことで有名なルッソ兄弟によって製作されたSFアドベンチャー。 原作のディストピア感に満ちた不気味な世界観が大好きだったことと、コミック映画の頂点といってもいいだろう「エンドゲーム」のルッソ兄弟が監督すると知って以来楽しみにしていたのだけれど、待ちに待った予告篇を観た時になんだか少し原作よりもキャッチー過ぎる空気感が気になり、本篇公開までもやもやしてしまっていた。 そのもやもやは本篇を鑑賞してもほぼ変わらずで、原作が持っていた奇妙な世界観への想像が無限に拡がるような感覚は得ることが難しかったけれど、単品の映画としての完成度は高いとも感じた。 今作の舞台は1990年代のアメリカでありながら、1950年代に自律型ロボットが開発されたところが歴史の分岐点となり、我々が知るそれとは違う世界の物語になっている。 自律型ロボット達の反乱と、その拡大によって起きたロボット対人間の戦争で荒廃してしまった別世界の描かれ方が面白い。 ロボットたちの造形は、どのキャラクターにも別世界の歴史の変遷を想像させる個性があってとても魅力的だけれど、その中でもキーパーソン (キーロボット) になるキャラクターは私達の世界にも実際に存在する超有名な意匠がもとになっており、SFならではの「if (もしも)」を感じ、ゾクゾクするような興奮を覚えた。 脚本は良くも悪くも複雑さを極力排除した内容にハリウッドナイズされており、起承転結がしっかりあって、主要な登場人物とロボット達それぞれのドラマもありながらそのキャラクターアークが収まるべきところに収まる形になっている。 「エンドゲーム」級の超大規模なアクションやバトルを期待すると寂しい気持ちになるかも知れないけれど、終盤における決戦シーンには何度か見直したくなるほどかっこいいと感じるアングルや演出がいくつかあった。 出演俳優は、主人公を演じるミリー・ボビー・ブラウン、なりゆきでその主人公を助けることになる密輸業者を演じるクリス・プラットの2人を中心に、キー・ホイ・クァン、スタンリー・トゥッチ、ジャンカルロ・エスポジートといったスター俳優達が脇を固め、それぞれ素晴らしい演技をしている。 その中でも、ロボットの声優として出演するウディ・ハレルソンとアンソニー・マッキーの演技が特に印象に残った。 特にウディ・ハレルソンが演じるキャラクターの表情や台詞、そして勇姿には何度もグッときてしまった。 製作費がとんでもない額になっているといった話や、映画評論家からの評価が低いといった話もあるようだけれど、単品のSF映画としては十分に面白い。 原作の不気味で寒々しい世界観にもう少しだけ寄せて欲しかった気持ちはあるけれど… そうするとメジャー感が薄まってマニアックになってしまいそうだし、より多くの人に観てもらうための娯楽映画としては、キャッチーなトーンでまとめることが正解なのだろう。 https://filmarks.com/movies/119012/reviews/193767527
- ミスミソウ | Liverleaf (2017)
3.3/5.0 押切蓮介による漫画を原作とするバイオレンス・ホラー映画で、「ライチ☆光クラブ」や「ホムンクルス」等のダークな作風で知られる内藤瑛亮が監督を担っている。 映画鑑賞前に原作漫画を読み終わっていたので、こんなにダークで容赦のない暴力描写ばかりの物語をどうやって実写化するのだろうと思いながら鑑賞したが、ハリウッドや韓国等の映画と比較すればやはり薄っぺらく感じてしまう部分があるものの、概ね原作の見せ場を忠実に実写でやり切っているのではと感じた。 VFXのチープさや俳優達の演技の浅さが気になって物語に没入することが難しかったが、少なくとも監督がどんな画を形にしたいかについてはしっかり伝わってきた。 主人公を演じる山田杏奈やその主人公に想いを寄せる同級生を演じる清水尋也には存在感があったが、安っぽいVFXや血糊メイクで俳優に損をさせてしまっているような… また、主人公が窮地に陥ると「こんなところに◯◯が落ちていた」といった形であり得ないレベルの幸運を発揮し逆転アイテムを拾うシーンが頻発するが、これらは原作でもほぼ同様なので、ある意味仕方ないともいえる。 原作漫画でも映画でも共通する要素、というよりは根底に描かれているものとして、閉鎖的なコミュニティに生きる者達が感じる息苦しさがある。 客観的に考えればどうしたってまともではないと思える事態も、その閉じた世界に生きている者達にはその異常さを自覚することができないという社会の闇を、この作品はバイオレンスという手段を通して描出している。 小さな田舎街で生まれ育ち、いつも息苦しく生き辛い思いをしてきた自分は、劇中の暴力描写によって、少年時代に受けた傷を再び抉られるような幻視的な痛みを感じた。 https://filmarks.com/movies/75318/reviews/193770153
- スマイル2 | Smile 2 (2024)
3.8/5.0 不気味な笑顔を浮かべた人間が次々と自殺するというショッキングなホラー映画「スマイル (2022)」の続篇で、前作の監督だったパーカー・フィンが今作でも原作・脚本・監督を担っている。 前作の直後から物語が始まる形でその設定が直結しているが、今作の主人公は世界的に有名なアーティストで、比較的質素な舞台が多かった前作と比較すると画が都会的でとっても派手。 低予算で製作された前作が世界中で数百億円の興行収入を記録したことで、予算が大幅に増えたからだろう。 主人公が超常現象的な怪異に巻き込まれ、自身のトラウマ体験とも向き合うことを余儀なくされながらその事態の打開を計るというシンプルな脚本の中に、前作に引き続きゾワッとするほど強烈に怖い画がたくさん組み込まれている。 脚本の粗をあげようと思えば色々気になるけれど、この映画はそういった整合性よりはジャンプスケアも含めた恐怖演出に重点を置いていることが明らかなので、あまり深く考えずそれを楽しむことが正解のように思う。 画の表現が強烈なのでそこに注目が集まりそうだけれど、落ち着かない気持ちにさせる不気味なサウンドデザインもレベルが高い。 主人公を演じるナオミ・スコットの存在感は抜群で、その美しさで画をもたせる力があることはもちろんなのだけれど、誰もが憧れるであろう才能を持つスーパースターでありながら同時に精神性が未成熟かつクズでもあるという強烈な個性を持つ人物を演じきっており、素晴らしい俳優だと感じた。 ゴアなシーンや怪異の正体が現れるシーンの強い実存感が印象に残ったのでメイキング映像を探してみたら、CGで何でもできるであろうこの時代に、1980年代のSFやホラー映画の舞台裏を思わせるほどのアナログ手法で実物ベースの撮影をしていたことを知った。 監督のマニアックなこだわりやプライドをそこに感じ、楽しい気持ちになった。 https://filmarks.com/movies/117291/reviews/193222195
- トラップ | Trap (2024)
3.7/5.0 「シックスセンス (1999)」の終盤のどんでん返しが発明レベルかつ衝撃だったことから、それ以降に製作する作品のハードルが上がり過ぎているM・ナイト・シャマランによるサスペンス映画。 今作の設定で面白い点は、一見子煩悩な主人公が実は善人じゃないどころか連続殺人犯であるところに尽きる。 大切に思う娘のためにチケットを手に入れたアーティストのコンサートに入場した主人公が、FBIと警察による厳重な警備で会場ごと封鎖されていることに気づき、それが自分を逮捕するための罠だと気づいて何とか脱出するために策を練るという脚本が、ツイストが効いていて面白い。 また、そのために主人公がとる行動が人でなしだったり、あり得ないと感じるほど突拍子がなかったりするところも、ポジティブにいうと劇的で退屈しない。 会場から脱出するもしくは失敗するところで物語が決着するのかなと思いきや、そこからさらに物語が展開し第二幕が始まるところにも意外性がある。 主人公を演じるジョシュ・ハートネットは屈強でヒーロー感のある善人役のイメージが強かったが、今作では良き父親でありながら殺人犯という複雑な精神性を持つ役柄を見事に演じており、ハイレベルな演技を鑑賞することができる。 多数のファンがコンサートに集まるアーティスト役を演じるのは監督の娘かつシンガーソングライターとして活動しているサレカ・シャマランで、劇中でも歌唱を披露している。 作品鑑賞前は、アーティストの存在は舞台設定におけるマクガフィンのひとつで、親バカとして有名なM・ナイト・シャマランのささやかなお遊びなのだろうと思っていたが、それどころじゃないというか脚本上のキーパーソンともいえるほど重要な役どころになっており、さすがに親バカが過ぎるのではと笑ってしまった。 物語の終盤でどんでん返しがあるのかないのかについては、シャマラン監督の作品が公開される度に会話されるぐらいの鉄板ネタになっているようにも思うが、今作がどうなのかについての言及は避けたい。 個人的には、脚本全体を通して良くも悪くも映画的な飛躍が大き過ぎて破綻しているように感じるところもいくつかあるけれど、演出の巧みさや俳優の演技の説得力もあって鑑賞中は何となく納得させられてしまう魅力があり、サスペンス映画としての興奮を楽しむことができた。 https://filmarks.com/movies/114684/reviews/193222309
- タイタン | The Titan (2018)
2.9/5.0 「アバター」シリーズや「ターミネーター4」に出演していたサム・ワーシントンが主演しているSF映画で、NETFLIX資本で製作・配信されている、いわゆるNETFLIXオリジナル (B級) 映画の1篇といえそうな作品。 未来において人口爆発と環境破壊による絶滅の危機に直面した人類が、土星の衛星タイタンへの移住を計画し、その過酷な環境へ適応するための「強制進化」ともいえる人体改造実験が行われる、という物語。 軍隊で働いていた主人公は従軍時のサバイバル経験を評価されてその実験対象に選ばれるが、前人未到で成功が保証されていない改造のため、同僚達は次々と命を落としていく。 製作者達はおそらく、予測不能な人体変容とそれによる人間性の喪失といった部分の描き方において、巨匠デヴィッド・クローネンバーグによるホラー映画「ザ・フライ (1986)」あたりに敬意を払いながら参照したのだろうと感じた。 人類のためとはいえその行為に倫理的に問題はないのかといった科学者のジレンマについても描かれてはいたが、どうもそのあたりが曖昧なまま決着せずに物語が進んでいくので、テーマについての踏み込みが浅い印象が残ってしまう。 脚本としていちばん気になったのは、仮に人類の誰かが過酷な強制進化に成功しタイタンへの移住が実現したとしても、そんなに改造の成功率が低いのなら、移住できるのは結局ほんの一握りに限られて、大半の人類は改造に耐えきれず絶滅してしまうのでは… という点。 派手な画づくりはほとんどないながらもテーマには興味があったので最後まで鑑賞できたが、やや微妙な消化不良感が残るB級映画だった。 https://filmarks.com/movies/79092/reviews/193222370
- デモニック | Demonic (2021)
2.7/5.0 「第9地区」「エリジウム」「チャッピー」といったバイオレンスなSFアクションを得意とするニール・ブロムカンプ監督が手掛けたSFホラー。 同監督の作品の中では知名度が低い作品だが、その作風や演出センスが大好きなファンのひとりとしては見逃せず鑑賞した。 絶縁中の母が昏睡状態にあることを知った主人公が、その母が保護されている医療施設を訪れるが、医師たちから「母親の意識とコミュニケーションできる仮想空間に入って母親を現実世界に呼び戻す」ことを依頼されるという、ニール監督らしいSFアプローチの導入。 ただ、その母には壮絶な過去があり、昏睡していることにも驚愕の理由があり… と、SFからオカルトの方向へとジャンルが展開していく。 世界中を巻き込んだ新型コロナ禍の期間に製作された作品ということがあり、ニール監督は今作以前の大規模な製作体制の考え方を大きく変え、限定されたチームスタッフとリソースで今作を完成させたらしく、精緻なVFXや大規模なアクションシーンは抑えられている。 今作では仮想世界の演出に重きが置かれていて、数世代前のコンソールゲーム機が演算していたような粗いポリゴンで構築されているのだが、その歪さや不完全さが仮想世界の非現実感や不気味の表現にもなっていて、個人的には面白いと感じた。 ただ、予算がないから苦し紛れでこんな安っぽいCGにしちゃったの? と感じる人が多いだろうとも思う。 後半では物語が大きく動き出すのだけれど、そこからは凡庸なホラー映画と同じような話の運びになってしまっていて、ブロムカンプ監督ならではともいえる脚本のド派手な暴走と激しい着地を観ることができず、監督のファンとして期待していたこともあり物足りなかった。 ブロムカンプ監督自身が設立した短篇映画製作プロジェクト「オーツスタジオ」での実験的なアプローチの経験を今作に活かしたということらしいけれど、「オーツスタジオ」の短篇達の方が今作よりもずっとワクワクしたなぁと感じてしまったところがやや残念。 監督のファンであることは変わらないので、次はどんな新しい世界を見せてくれるのか期待して待ちたい。 https://filmarks.com/movies/97960/reviews/152694641
- ソウX | Saw X (2023)
3.0/5.0 2004年に公開された1作目の衝撃的な物語から大人気ホラーシリーズとなった「ソウ」の10作目で、1作目から編集でシリーズに関わり、6作目と7作目では監督も務めたケヴィン・グルタートが今作の監督と編集を担っている。 今作の時系列での位置づけは1作目と2作目の間になるが、シリーズのファンでもそうではなくとも、脚本に大きく影響することではないのでそれほど気にする必要もない。 シリーズのファンにとっては、その生死に関係なくシリーズ全体を支配し続ける主人公ともいえる猟奇殺人鬼ジグソウが復活する (正確にはまだ存命) という意味において、原点回帰的な楽しみがあるといえばある。 末期がんを患った主人公が奇跡的な治療法を求めメキシコへ渡るが、自分が悪質な医療詐欺に巻き込まれたと知って絶望し、詐欺師達への復讐を行うという筋書き。 シリーズの特別なファンではないながら何となくこれまで全作を観てきた自分は、毎回極限レベルに痛そうでグロテスクながら同時に笑ってしまうぐらいクリエイティブな殺人システムの数々に興味があり、今回はどんな仕掛けが発明されているのかが気になって鑑賞したが、その点では今回も退屈はしなかった。 ジグソウが標的と設定した人々が一方的かつ残虐に殺されるのではなく、自身を痛めつける (ジグソウにとっての救済措置であり贖罪) 行為を完遂すればギリギリ命だけは助かる仕掛けになっているところが、他のホラー映画シリーズとは違ったソウシリーズ独自の個性といえる。 主人公でありながら猟奇殺人鬼でもあるジグソウという存在なりに、「命の尊厳」についての強固な哲学を持っているところが面白い。 とはいえ、10作目ともなるとやはり物語の設定や脚本のツイストにも斬新なアイデアを見つけることが難しく、長く続くシリーズの宿命としてあるマンネリとその打破に挑む製作者達の苦しみがそのまま作品に出てきてしまっているようにも感じられ、うーんこのシリーズはいつまで続くのだろうと思ってしまった。 https://filmarks.com/movies/111550/reviews/192384418