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- WXIII 機動警察パトレイバー | WXIII: PATLABOR THE MOVIE 3 (2001)
3.9/5.0 機動警察パトレイバーのアニメ映画版3作目で、押井守監督が手掛けた1・2作目と比較すると注目が集まりにくいが、脚本と演出がとても繊細かつ丁寧で、ひとつの物語として完成度が高い作品になっていると感じた。 パトレイバーの作品群に共通する設定として、私達が知っている昭和〜平成の時代とほとんど同じながら、工学的技術の進歩の方向や巨大災害および復興工事の有無の違いがあり、パラレルな世界観がある。 この作品での昭和は1989年 (昭和64年) で終わらず昭和75年まで続いており、登場人物達の生活や東京の風景描写にも昭和末期の空気が残っていて、知っているようで見たことがないという異質な世界を体験することができ、とても面白い。 押井守監督によるこのシリーズの映画版は、タイトルにも含まれているレイバー (平たくいうと巨大ロボット) の活躍場面が少ないことが不満という評価をする人もいるが、とり・みきが脚本を手掛けたこちらの作品は、押井守版よりもさらにレイバーの登場時間が短く、古典的な刑事ものを下敷きにした人間ドラマになっている。 そこに謎の怪物という要素も組み込まれ、物語がSF的に飛躍するところが面白い。 ただ、これまでのシリーズの主役やその周辺人物達は完全に脇役として配置されているので、その点を不満に感じるシリーズのファンは少なくないのだろう。 そのうえ、主役達はスーパーヒーローでもエースパイロットでもなく一介の刑事で、巨大な怪物に対して武器を手に立ち向かうような役割は全然担わないので、主役が悪役をやっつけるといった勧善懲悪な展開を期待する人には物足りないと感じられるかも知れない。 全体的な演出に関して、地味な部分なのでなかなか評価されにくいのかなとも思いつつ、人物達の性格・思考・過去・関係性の表現が本当に丁寧で上手だなと感じた。 長台詞やナレーションで何でもかんでも説明してしまうのではなく、ちょっとした目線や手の動き、極めて短い台詞、カメラのアングルの変化、またカットを切り替えるタイミングや秒数といった部分で人間の感情の機微を表現する演出のレベルがとても高く、人物達の存在のリアリティを感じることができる。 監督の演出力に拠るところもあるとは思うが、脚本の段階でそのあたりの描写のディティルがしっかりと考えられていたのではないかと感じた。 ラストシーンでの人物の表情と小道具の描かれ方に、その後も続く世界への想像を促す確かな力があって、特に心に沁みた。 ポン・ジュノ監督の「グエムル -漢江の怪物-」はこの映画を模倣したのではないかという話をよく聞き、確かに怪物の造形に関しては似ている部分が多く参考にしたのかも知れないとも思うが、物語の展開や登場人物達の関係性といったところは全然違うし、どちらの作品にもオリジナリティがあり良い作品だと思う。 https://filmarks.com/movies/18764/reviews/152620702
- 機動警察パトレイバー2 the Movie | Patlabor 2 The Movie (1993)
4.9/5.0 伊藤和典が脚本を、押井守が監督を担った1993年公開のアニメ映画で、ゆうきまさみによる原作漫画やアニメーションシリーズがあるが、世界観や登場人物をそれらと共有しつつ、この作品独自の物語になっている。 ある人物によって引き起こされた関東エリアでの爆破事件によって、かりそめの平和を享受していた東京に「戦争」という状況が発生する。 たった一発のミサイルによって引き起こされた混乱が、長く戦争という状況から遠ざかっていた日本人の生活や意識をどう変容するのか、もしくはしないのかが、完全にフィクションかつアニメーションという表現手法でありながらも、凄まじいリアリティと緊迫感をもって描き出される。 この状況を作り出した首謀者の目的は何か、状況の終着点には何があるのかという謎を追う形で物語が展開していく。 原作漫画やアニメーションシリーズは、作品に登場する警視庁のレイバー (平たく言えば人型ロボットの警察車輌) の操縦者となる警察官が主人公だったが、この作品の主人公はその上官達になっており、レイバーの操縦者や個性的なその同僚達は完全に脇役に回っている。 正義のロボットが悪役ロボットと派手に闘って勝つのだといったシンプルな脚本では全然なく、むしろそういったパートは全篇のうちほんの10分程度で、殆どのパートは「戦争」という状況そのものと、会話劇中心の人間ドラマで構成されている。 一見すると地味極まりないようにも思えるその人間ドラマの、繊細かつ重厚な演出の筆致が素晴らしい。 物語が進むにつれて遂に事態の収集がつかなくなり、自衛隊の部隊や戦車が東京の各地に展開するという、とてもSF的なシーンがあるのだが、その状況を捉えるアングルや風景の、強烈な非日常感を帯びた描写に驚かされる。 いつかこういった風景が東京に現出する日が来るのかも知れないという恐怖と、もしかしたら日本人はその状況に直面してもなお現実として受け止められないのかも知れないという不安と、もしくはそういった風景すら私達は数日で慣れてしまうのかも知れないといった痛覚麻痺のような焦燥を感じた。 展開する自衛隊を眺める一般市民はもとより、自衛隊員本人達ですら、この景色は本当に現実なのだろうか、幻ではないのかという表情をしているところに、凄まじいリアリティがある。 なぜなら、自衛隊員を含む私達日本人の多くは既に、戦争という状況を実体験したことがない世代なのだ。 川井憲次が手掛けた劇伴の素晴らしさも特筆すべきレベルで、パッと見の派手さには欠けながら実は重厚な画づくりを時に凌駕するほど強烈な存在感を纏った音の演出に圧倒される。 中盤にある「幻の爆撃」のシーンと、終盤にて東京の各地で発生するピンポイント爆撃のシーンの劇伴は特に見事で、これらのシーンの緊迫感を越える演出はなかなかないのではないかと感じる。 日本を象徴する東京という都市の実存への問いが、この作品のテーマなのだろう。 そして、劇中で状況を発生させた首謀者の真の狙いと、押井守がこの作品の鑑賞者へ提示したかった画は、きっと同じものなのだろうとも思う。 東京には、文明の質量やそこに生きる人間の息遣いが確かにありながら、ありとあらゆるものが虚無か幻のように感じられる瞬間もある。 戦後の焼け野原から数十年を経て、世界最大級の都市へと変貌した東京が立脚しているこの土地の地層には、どんな歴史が積み重なっているのか、もしくはいないのか。 https://filmarks.com/movies/24512/reviews/152619975
- A KITE - International Version - (2000)
1.5/5.0 著名アニメーターの梅津泰臣が原作・脚本・キャラクターデザイン・監督を担った1998年発表のアニメーション。 クエンティン・タランティーノやロブ・コーエン等のハリウッド映画関係者からリスペクトを公言されている監督の作品ということで興味が湧き、鑑賞した。 一般向け作品だと企画が通りにくい (製作予算がつきにくい) ことから18禁向けの作品として企画された背景があり、割とダークなエロティシズムが脚本の骨格部分に組み込まれているが、2000年に発表された再編集版のインターナショナルバージョンはアダルトシーンが減りアクション要素が増えているとのこと。 主人公は女子高生と殺し屋という表と裏の顔を持つ少女で、同じく裏の世界に生きる少年との出会いと、殺し屋達の非情な世界が描かれる。 ケレン味のある大胆な画づくりで知られる梅津監督ならではの、斬新でスタイリッシュなアクションシーンの演出は面白い。 ただ、それ以外のシーンとの落差が激しいともいえるというか、キャラクターの性格設定が良くも悪くも記号的なこともあり、アクション以外のシーンの退屈さやチープさの方が目立ってしまっているようにも感じた。 近未来の東京を舞台としつつ、街並みや状況の見え方がシーンごとに著しくバラついていたり、世界観の一貫性のなさも目についてしまう。 ジャズベースのBGMや絵柄も、公開当時は洒脱に聴こえたり見えたのかも知れないが、20年以上を経た今観ると、どうしても陳腐に感じられてしまう。 90年代のジャパニーズアニメーション映画が世界に影響を与えるに足る輝きを放っていたことは間違いないが、当時の押井守氏や大友克洋氏の作品には普遍性があるように感じながら、なぜこの作品は (自分だけかも知れないが) そう感じられないのかを考えてしまった。 その時々の流行を作品に取り入れることには、公開当時は最先端を行っているように見せられるメリットがあるが、時代を超越する普遍的な魅力を失うというデメリットもあるのかもしれない。 https://filmarks.com/movies/55214/reviews/188375110
- オッペンハイマー | Oppenheimer (2023)
4.3/5.0 「原爆の父」ロバート・オッペンハイマーの半生を描いた伝記映画で、「ダークナイト」「インターステラー」「テネット」を手掛けたクリストファー・ノーランが脚本・監督・製作を担っている。 主人公のオッペンハイマーを演じるのは、ノーラン監督作品の常連ともいえる名優キリアン・マーフィー。 エミリー・ブラント、マット・デイモン、フローレンス・ピュー、ロバート・ダウニー・Jrといった超一流俳優達が助演しており、その迫真の演技に圧倒され、まるでドキュメンタリー映画を観ているような錯覚に陥るほど。 第二次世界大戦当時、米国の敵対国だった日本の広島と長崎に投下された2発の原子爆弾がどんな人々によってどのような経緯で開発されていったのか、またその開発の成功が (原子爆弾の直接被害を受けた日本人達のみならず) 開発者やその関係者達にどんな結末をもたらしたのかについて、どの登場人物とも精神的な距離が置かれながら描かれる。 広島と長崎の壊滅を正当な行為だったと認めることは日本人として絶対にできないが、作中でも触れられる通り、仮にオッペンハイマーやその同僚たちが原子爆弾の開発に失敗した世界があったとしても、他の誰かがおそらく同様の破壊兵器を生み出すことになったのだろう。 純粋な動機に基づく科学的探求の末、こういった現象が存在すると突き止め、それを自らの手で実証できそうだと分かった時、人類はまだ、それを目にしてみたいという欲求を自制できない未熟な生物なのだ。 日本人としてもっとも心が痛んだシーンは、完成した原子爆弾を日本のどの都市に投下するかについて米国人達が議論するシーンだった。 広島と長崎だけでなく、京都・新潟・小倉といった都市もその候補に入っていたこと、もしかしたらそれらの都市が壊滅していたかも知れないことと、その決定の過程があまりにも軽薄だったことに、戦争という行為への憤りを感じずにいられなかった。 オッペンハイマーが終劇間際に幻視する、核を搭載したロケットが世界中で発射され地球が燃え上がるシーンは、神から火を盗み人間に与えたプロメテウスのように、人類がまだ触れてはいけなかった核という火を世界に与えてしまったオッペンハイマーの後悔と恐怖が見事に表現されていた。 私たちは、オッペンハイマーが切り開いてしまった、核兵器が大量に存在する破滅間際の世界に生きている。 そして、その破滅がいつ、どんなきっかけで、誰が住む街から始まるのか、誰にも予測できないのだ。 ノーラン監督が手掛けてきたSF系映画やコミック原作映画とは全くジャンルが違う伝記ものかつものすごく重いテーマということがあって、なかなか鑑賞する気持ちになれず、鑑賞後にもやはりとても重い読後感が残ったが、この作品を観ることができて良かったと感じた。 https://filmarks.com/movies/99563/reviews/188375188
- ヴェノム: ザ・ラストダンス | Venom: The Last Dance (2024)
2.0/5.0 MARVEL COMICSの人気キャラクター「ヴェノム」を主人公とする、SONY配給のSSU (Sony's Spider-Man Universe) に属する映画シリーズの3作目にして完結篇で、Disneyが展開するMCU (Marvel Cinematic Universe) との関連性はありそうでなさそうという微妙な立ち位置にある作品。 脚本と監督を担ったのはケリー・マーセルで、主演のトム・ハーディとの親交が長く、シリーズの1作目と2作目の脚本や製作にも携わってきて、今作が監督デビューとのこと。 人間等に寄生し共生する能力を持つ地球外生物と寄生された主人公の、文字通り一心同体的なバディムービーだが、残虐な寄生生物の性質が引き起こすハチャメチャなトラブルやアクションが見どころではある。 ただ、3作目ともなってくると新鮮味がそれほど感じられず、主人公と寄生生物の会話劇中心のコメディパートにもあまりキレがなく、画のド派手さがあってもなかなか没入できず、退屈してしまった。 脚本や登場人物の設定については、どうにもフォローできないレベルの粗さがある。 おおらかだった2000年代のSFアクションを思い出させるともいえるが、もう少し何とかならなかったのだろうか… という気持ちになってしまった。 様々な人物が登場し、そのバックストーリーについて印象的に描写される人物もいながら、そのあたりの設定がほとんど物語の展開に活かされていなかったり、主人公以外の寄生生物も終盤でたくさん登場しながら、それらの扱いがことごとく雑だったり… 何より、SSUとMCUの間に複雑なビジネス事情が存在することは (MARVELのファンなので) 映画外の情報として知っていつつも、MCUでけっこう重要な役柄を演じた俳優 (キウェテル・イジョフォーやリス・エヴァンス) がSSUに属する今作で全く別の役にて登場していながらそのあたりが本来の物語と全く関係なかったり、かつその行動原理がほとんど理解不能だったりで、何だこれはと呆れてしまった。 マーケティングの観点から、SSUとMCUの関連性想起 (いわゆる匂わせ) 目的でキャスティングとキャラクターの用意がされたのだとしたら、MARVELの映画をずっと追ってきたファン達を小馬鹿にしているとも言えるし、ファンのひとりとして愉快ではない。 作品を鑑賞して感想を述べるだけの気楽な立場からは見ることができない、映画産業という巨大なビジネスならではの事情が様々あるのだろうとは思いながら… いち鑑賞者の自分としてはただシンプルに映画やドラマそのものを楽しみたいだけなので、ビジネスの裏側が表出してしまっているような歪な作品に直面することは、とても残念。 https://filmarks.com/movies/106266/reviews/188026806
- アイズ・オン・ユー | Woman of the Hour (2023)
3.1/5.0 実在の殺人犯が起こした惨たらしい事件の記録に基づいた物語で、俳優のアナ・ケンドリックが主演 兼 初監督を務めたスリラー映画。 プロの写真家を騙りその被写体のモデルにと女性達を騙しながら多くの人々を手にかけたロドニー・アルカラが、罪を重ねつつ同時に当時のTVショーにも出演していたという事実がおぞましく、それがフィクションではないことに戦慄する。 にわかには信じがたいショッキングな事実が題材に選ばれていることもありながら、いわゆるメイルゲイズカルチャー (Male Gaze / 男性のまなざし = 女性は常に男性の欲望の対象として見做される) が色濃く残っていた1970年代の影の側面の描写がとても巧みで、何とも形容しがたい居心地の悪さを感じる。 フェミニズム映画なのか? といわれればそうなのかも知れないが、声高で攻撃的な主張というよりは、この映画で描かれているように不均衡で異常な時代がかつてあったことの (再) 提示と、現代においてもそういった異常性の残滓がまだ存在しているのではないかという社会への問いかけが、アナ・ケンドリックの成したかったことなのではないかと感じた。 映画的演出の部分を見ると、メイルゲイズの不快やそれを浴びる側の恐怖が鋭く描写されたカットがたくさんある一方で、時系列や登場人物やシーンが行ったりきたりで混乱しそうなバタバタ演出もやや気になり、もう少しシンプルでクラシックな時系列通りの構造で整理した方がより良かったのではないかと感じた。 実話に基づいているという前提があるので、勧善懲悪的で映画的な結末が望めないことは想定していたが、後味が苦くスッキリとは程遠い終劇には気分が沈んでしまった。 ただ、そのような読後感をもってこんなことが二度と起きないようにという気持ちを多くの人に持ってもらうことこそが製作者達の狙いなのだろうとも解釈した。 映画単品の完成度としては、光る部分もあれば歪な部分もあって微妙かなと思いつつ、そのメッセージの価値は高いと感じる。 アナ・ケンドリックが今後も俳優だけでなく監督としても映画に関わり続けるのだとしたら、次はどんな物語がどのように語られるのか楽しみだ。 https://filmarks.com/movies/112676/reviews/187845815
- 夢がしゃがんでいる | Crouching Dreams (2008)
3.0/5.0 アーティストの村田朋泰による短篇集というか、断片集というか、美術館の空間を全面的に使って展開する映像インスタレーションのアーカイブのような映像作品。 村田氏のクレイアニメーションを初めて観た時からその寂寥感と温かみが同居する作風のファンだけれど、この作品は映像作品単体としての面白みを見出すことが正直難しかった… 美術館で身体的にインスタレーション体験すれば、また感じ方が変わるのかもしれないと思いつつ。 https://filmarks.com/movies/60344/reviews/187324109
- 地獄の変異 | The Cave (2005)
2.9/5.0 山奥に立つ教会跡の地下に広がる巨大洞窟を発見し、調査団が侵入するが、そこには… という、王道といえば王道のホラー映画。 監督のブルース・ハントは「マトリックス」の第2班監督だったらしいが、今作以外の監督作品はなさそう。 「300」や「ゲーム・オブ・スローンズ」に出演していたレナ・ヘディが今作にも出演していると知り鑑賞した。 洞窟内には地下水脈が広がっているという設定で、調査団がダイバーチーム中心で構成される点が面白く、水中を探検するシーンは新鮮に感じた。 主人公を含む調査団が未知の生物の襲撃を受け、退路も失った状況で、洞窟からの脱出が描かれるのだけれど、良くも悪くも安定的な展開で、予想外のことがほぼ起きないところが少し残念。 閉鎖空間を描く際には近いサイズのアングルが続いて眠くなりがちだが、ロングショットとクローズアップの使い分けや編集のテンポに工夫があり、その点は退屈しなかった。 この作品ならではといえる個性が少なく、傑作映画とは言えないかも知れないが、丁寧に作られたB級ホラーだなという読後感。 https://filmarks.com/movies/8570/reviews/187682229
- 朱の路 | Aka no Michi (2003)
4.4/5.0 アーティストの村田朋泰による13分の立体アニメーション。 ピアニストの男が見る幻想的な夢の世界の風景が圧倒的で、クレイアニメーション特有の独特な空気感もあいまって惹き込まれる。 ひとつひとつのアングル・カラーリング・ライティングのレベルが高く、まるで動く絵画のよう。 台詞が一切ないものの、控えめながら美しい劇伴と人形の微細な演技で、台詞で語る以上の物語を感じ取ることができる。 約20年ぶりに再鑑賞したが、初めて鑑賞した時以上に感動をおぼえたのには、自身が年齢と経験を重ねたことが関係しているのかも知れない。 https://filmarks.com/movies/19774/reviews/152934041
- シビル・ウォー アメリカ最後の日 | Civil War (2024)
4.4/5.0 「エクス・マキナ」「アナイアレイション」「MEN」等で脚本・監督を担った英国出身のアレックス・ガーランドによる戦争映画で、2024年における最注目映画のひとつといっても良いであろう作品。 政治暴走への反発から、米国を構成する50州のうち19州が分離独立を宣言し、内戦が勃発した米国が舞台。 脚本の中心人物はジャーナリスト達で、キルスティン・ダンストが演じる戦場フォトグラファーの主人公と、ケイリー・スピーニーが演じるキャリア駆け出しの写真家を軸に物語が展開する。 ホワイトハウスに立てこもり続ける大統領を取材すべく、主人公達がニューヨークからワシントンD.C.を目指し約1,400kmの旅をする。 シーンや風景が様々に切り替わるロードムービーの手法を取りつつ、現代社会における米国の内戦という状況描写のリアリティが凄まじく、これはフィクションだと理解していながらもドキュメンタリー映画を観ていると錯覚をしてしまいそうな瞬間がいくつもある。 脚本・監督のアレックス・ガーランドの意図は明らかで、これは2024年の米国大統領選挙を機にあらためて顕在する (された) 米国内の思想分断という現実を、物語として先鋭化したということだろう。 ただ、現実においては「保守主義 (コンサバティブ)」と「自由主義 (リベラル)」という2大主義が米国の政局バランスを握っているが、この映画において分離独立した19州と政府および大統領がそれぞれどちらの主義なのかについての描写は全くといっていいほど存在せず、これも製作者による意図的なものであることが分かる。 内戦という状況そのものを凄まじいリアリティによって具象化しつつ、その勃発が何に起因しているのかについては抽象化することで、どちらが正義でどちらが悪といった勧善懲悪的な単純理解を鑑賞者にさせず、その意識を国家の分断という現実そのものと向き合わざるを得ないようにするという意図がある。 これまで戦場フォトグラファーとして何度も死線をくぐり抜けベテランの落ち着きを備えていた主人公が、ワシントンD.C.への旅の過程で起きる極限状況で次第に疲弊し、自我が揺らいでいく展開が恐ろしい。 反対に、物語の序盤では主人公やその同僚に半人前と扱われていた駆け出しの写真家が、極限状況を生き延びながらその状況を記録し続けることを通して、次第に狂気にも似たプロフェッショナルの凄みを纏っていくという、主人公と対になった人格変遷の演出が面白い。 多くの批評家や鑑賞者が触れているシーンではあるが、ジェシー・プレモンスが演じる赤いサングラスをかけた兵士が登場する一連のシーンの静かな禍々しさは、映画史に残るレベルと感じた。 同じ言語を使っていて、会話が通じるのに意思は疎通できず、そんな存在に自分達の生殺与奪の権を握られているという恐怖。 現在の米国がどういう状況に陥っているかを、最も端的に描写しているといっても過言ではないのではないか。 アレックス・ガーランド監督には以前から注目していたものの、映画としてのエンタテインメントよりもアートへのこだわりに重きをおいている印象が強く、作品によって面白いと感じるものと全然刺さらなかったものがありその差が激しかったのだけれど、今作はエンタテインメントとアートの両立のみならず現代社会に対する痛烈なテーマの投げかけもあって、久々に素晴らしい完成度の映画を鑑賞したという読後感があった。 https://filmarks.com/movies/113906/reviews/187316467









