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  • ハイタッチ | Smash and Grab (2019)

    3.2/5.0 ピクサー製作による「SPARKSHORTS」シリーズの1篇。 超発達した文明世界に生きる、肉体労働者的な2体のロボット達が主人公。 世界観の説明も台詞も一切ないが、主人公達が置かれている単調で過酷な境遇やそこからの脱却への行動に至る思いがしっかりと画で分かり、そのあたりの演出レベルの高さはさすがピクサーだなと感じる。 凸凹コンビ的な2体の外見や動きの個性も愛らしく、大胆な行動に出た2体に訪れる危機にハラハラしてしまう。 想像していた内容を大きく裏切る結末ではなかったが、10分にも満たない短篇で得られる満足度としては十分。 https://filmarks.com/movies/95401/reviews/184351898

  • デューン 砂の惑星 PART2 | Dune: Part Two (2024)

    4.4/5.0 フランク・ハーバートによる壮大なSF小説シリーズの映画化作品で、「メッセージ」や「ブレードランナー2049」等のSF映画で重厚な画づくりを形にしたドゥニ・ヴィルヌーヴが脚本・監督を手掛けている。 原作が出版された1960年代から何度も実写作品化が構想されつつ、その世界観があまりにも壮大過ぎることで挫折する製作者が相次ぎ、1984年に初めて実写化を成し遂げた巨匠デヴィッド・リンチですら満足のいく内容には仕上がらなかったと振り返るほどの物語だが、ドゥニ監督による今回の挑戦は、少なくともこの第二部までは成功していると感じる。 登場人物等の設定を中心に様々脚色されていながら、原作が持つ神話のような荘厳さがあり、鑑賞中に思わずSFジャンルの映画であることを忘れてしまうほどの迫力がある。 作品の主な舞台は我々の世界と全く違って見える文明や惑星だが、設定としては我々の文明と地続きでありながらその遥か未来の物語であるというところに、とてもワクワクする。 アーサー・C・クラークが提唱した三法則のひとつ「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」を思い出し、この作品で描かれている世界がまさにそれなのだろうと思う。 舞台となる砂漠の惑星アラキスの描写は、全てのカットが一枚の絵画として成立するような美しさで、それだけでもこの作品を観る価値があると感じるほど。 それに加えて、主演のティモシー・シャラメをはじめ、ゼンデイヤ、レベッカ・ファーガソン、クリストファー・ウォーケン、レア・セドゥ、ジョシュ・ブローリン、ステラン・スカルスガルド、フローレンス・ピュー、ハビエル・バルデムといった超一流の俳優達の演技に圧倒される。 ただ、映画としてのとっつきやすさという点においては、作品についての事前知識なしでも多くの人が気軽に楽しめる種類の作品ではないことも間違いない。 SF映画が好きで原作小説も (相当昔に) 読んだことがある私のような人間であっても、細かな世界観設定や作品内独自の様々な名称についての説明が本篇中にほぼ全くないので、いま何がどうなってこういう展開になっているんだったっけと見失ってしまうところが何箇所かあった。 とはいえ、本篇中にあれこれと丁寧な解説が入ると壮大な世界への没入感が削がれてしまうだろうし、映画の作りとしてはこれが正解なのだろう。 ジャンルとしては間違いなくSF映画だが、物語の展開は惑星規模の政治劇が軸になっており、その意味においては大河ドラマに近しい。 「スター・ウォーズ」をはじめとするSFオペラ映画やドラマの製作時に多く参照されたといわれる偉大な原作の世界や物語を、かつてないレベルの凄まじい技術と品質で実写化された作品として鑑賞できることを、映画好きのひとりとしてとても嬉しく思う。 原作小説の全てを映画化しようとすればあと数十年はかかってしまいそうだけれど、ドゥニ監督は続篇の「Part 3」までは手掛けたいと表明しており、製作も決定しているとのことなので、完成を楽しみに待ちたい。 https://filmarks.com/movies/99843/reviews/184347750

  • 風に乗る | Wind (2019)

    3.9/5.0 ピクサー製作による「SPARKSHORTS」シリーズの1篇。 謎の重力が作用する谷底で暮らしている祖母と孫が、そこから脱出するためにある計画を実行するという物語。 短篇の良い点には、鑑賞の負荷が低いという点もあるが、余分な情報が含まれていない分だけテーマの描かれ方が純化されるところがあると思う。 この作品の設定はすごくSF的で不思議だが、その背景の説明は一切なく、その場所で祖母と孫がどのように支え合って生きてきたのかが端的かつ魅力的に描かれていて、その洗練された演出のセンスが素晴らしい。 台詞がなくとも、祖母と孫の表情や間の微細な演出で、感情の変化と起伏がしっかり伝わってくる。 結末はある意味ハッピーエンドでありながら、とてもビターな読後感も残る。 未来を切り拓くべきは若者であって、その機会と世界を提供するのが老いた者の務めであり、そうして辿り着いた世界はどこまでも限りなく広大で美しいのだというメッセージなのだろう。 https://filmarks.com/movies/91612/reviews/183140812

  • デッドプール & ウルヴァリン | Deadpool & Wolverine (2024)

    4.3/5.0 製作が発表されて以来、公開日を楽しみに待ちわびていたので、公開初日に観賞した。 端的にこの作品を総括するならば、これまで20世紀FOXが製作・配給してきたMARVELヒーロー映画作品群への、ブラックジョークと血反吐と敬意にあふれた鎮魂歌あるいは救済であり、過ぎ去った時代を永く記憶にとどめるための、記念碑のような作品だ。 デッドプールを主人公とする映画作品は、1・2作目までは20世紀FOXが製作・配給してきたが、同社がその後ディズニーに買収され、3作目の今作はディズニー傘下のマーベル・スタジオの製作、ディズニーの配給となっている。 デッドプールという作品ならではの暴力描写と下品な言葉遣いにまみれた世界観が、ディズニーという超優等生的な企業の配給に変わることでトーンダウンするのではという声が多くあったが、そんな心配は全く不要だったというか、むしろ3作目の今作がシリーズ中最も過激かも知れない。 表現の過激さという観点に限っては、この作品はディズニー史上最高レベルだろう。 デッドプールが他のMARVELヒーローと比較して最も独特な点は、舞台用語でいうところの「第四の壁 (4th Wall) = 劇中世界と客席の間にある不可視の壁」を認識し、それを越える能力を持つところ。 つまり劇中のデッドプールは、観賞者である我々が生活する「こちらの世界」を把握していることはもちろん、我々に話しかけることもできるし、自身が主人公を担う映画を製作していたFOXがディズニーに買収されて… といったメタな事情まで認知しているという、極めてユニークなキャラクターとなっている。 そのユニークネスは、主演だけでなく製作や脚本にもクレジットされているライアン・レイノルズのそれとほぼ同じであるともいえる。 劇中でデッドプールが発している言葉がほぼそのまま、ハリウッドという巨大な映画産業の事情に翻弄されながら奮闘してきたライアン・レイノルズの本音のようにも聞こえ、文字通りの意味で映画やドラマの世界を飛び越える力を帯びた、辛辣かつ下品なジョークにまみれながらも純粋なメッセージになっている。 2008年の「アイアンマン」から始まったマーベル・スタジオの画期的な挑戦でもある、それぞれの作品が独立的に製作されながらも横断的にひとつの世界観を共有するという「マーベル・シネマティック・ユニバース (MCU)」シリーズのひとつに、この「デッドプール & ウルヴァリン」も属している。 物語を単独作品として成立させることは当然でありながら、十数年に及ぶ映画やドラマで展開されてきたMCUの歴史や設定と、非MCU扱いとなっていた20世紀FOX時代のMARVELヒーロー映画作品群の歴史や遺産の両方を、ひとつの脚本に組み込み融合させるという離れ業に挑戦しており、少なからず粗はありながらもそれに成功していたところには感嘆した。 近年のMCUで展開中の「マルチバース = 近似した並行宇宙が多数存在する」という設定は、その複雑さと何でもあり過ぎる部分で賛否両論が起きているが、今作においてはその設定を巧みに利用しながら、可能な限りこれまでの作品群との矛盾を少なくする形でまとめられていたように思う。 とはいえ、時系列を中心とする細かい部分の矛盾や疑問が皆無とはいえず、FOX時代とMCUの両方のMARVEL作品を観賞してきた自分としては、どうしても辻褄が合わず破綻しているのでは感じてしまう部分もいくつかあった。 …などと思いながら観賞していたら、劇中にてデッドプールが「マルチバースは複雑過ぎて限界だ、最近のMARVELはめちゃ失敗してる」といった内容をわめき散らしていて、そんなところまであけすけに言っちゃうのかよと感じながら共感してしまい、笑いを我慢できなかった。 物語の核とまではなっていなかったものの、カメオ出演といった言葉を遥かに越えるレベルで、MARVELコミックを原作としてこれまで製作されてきた、あるいは事情により製作されなかった数々のヒーロー映画からのゲストキャラクター達が次々と登場し、活躍したり全然活躍しなかったりするので、MARVELの古参ファンにとっては近年なかなかなかった興奮と感動が味わえることだろう。 特に、ある超有名俳優とその俳優が演じていたキャラクターへの愛が強過ぎるゆえのはちゃめちゃに雑な扱い方が最高に痛烈で、鑑賞中に何度も声を出して笑ってしまった。 2024年現在のコミック原作ヒーロー映画 / ドラマは、深く考えずに単品を楽しむことも可能ではあるが、細かい部分も含めた全部のニュアンスを理解することは相当に難しくなってしまっている。 MCUとFOXのMARVEL映画+ドラマの両方と、映画やドラマ世界の外で起きていた企業間の買収騒動等も含め、長く追いかけてきたディープなファンでなければついていけないような前段知識が必要な点が、観賞の敷居を高くしてしまっていることは間違いない。 並行世界の接続を実現するという今作の離れ業な脚本によって、FOX時代の遺産をMCUの世界へ組み込みつつもある程度の歴史的決着をみることに成功していたようには感じるが、それは同時にますます今後の作品の複雑化を招くことにもなるだろう。 それが今後のMCUにとって本当にいいことなのかどうかは、今の自分には分からない。 ただ、MCUの未来のことはさておき、デッドプールが劇中で大切にしていた写真の中の9人の家族と同じように、ライアン・レイノルズにとってのFOX時代のMARVELヒーロー映画は「世間がどう思うかはさておき、自分にとっては永遠にかけがえのない宝物なんだ」というメッセージは、自分を含む多くの人の心を打つことだろう。 https://filmarks.com/movies/105671/reviews/179289853

  • ザ・ウォッチャーズ | The Watchers (2024)

    3.8/5.0 M・ナイト・シャマランを父にもつ映像作家、イシャナ・ナイト・シャマランの長編映画初監督作品。 とあるきっかけで森に迷い込んでしまった主人公が、ガラス張りの謎の小屋に導かれ、そこに滞在する人物たちと出会うのだが、生きのびるための奇妙なルールを知らされ… という導入から始まる物語で、ホラー小説を原作としている。 子役の頃から数多くの映画に出演してきたダコタ・ファニングが主演を務めており、その独特な透明感と熟練した演技力が作品の質を高めることに貢献している。 主要な登場人物は4名とかなり少ないが、助演のジョージナ・キャンベル、オルウェン・フエレ、オリバー・フィネガンの3名それぞれにも確かな存在感がある。 監督の父であるM・ナイト・シャマランが、娘イシャナの長編映画デビュー作ということもあって製作を全面的にサポートしていたとのことだが、良くも悪くも父の作風とそっくりで、ほぼ完全コピーといってもいいぐらい。 不気味ながらどこか美しくもある森の風景の切り取り方や、夜に鏡写しとなる室内シーンのアングルの狙い方には非凡なセンスを感じたが、一方で、何が起きているのか良く分からないカットや凡庸・退屈なアングルもあり、初監督作品だからなのかも知れないが、けっこうムラがあるなと感じてしまった。 ホラー映画風の導入から始まり、続いてSFのようでファンタジーのようでもある謎が提示されるが、中盤以降で物語が大きく展開し、終盤ではジャンルを理解や分類することの意義が分からなくなるところなどは、まさに父親譲りの強烈な個性といっていいだろう。 特に、映画脚本の三幕構成でいう第三幕の展開には、予想できなかった意外性があり面白いと感じた。 脚本の細かい部分については、何を書いても作品の核心部分への言及につながって未鑑賞の方の興を削いでしまうので、控えておこうという気持ちになるところも、M・ナイト・シャマランの作品と共通している。 物語の設定は原作小説に準拠している部分が大きいのだろうとは思いつつ、その細かい部分をツッコミ目線で観ると粗が色々目立ってくる部分まで父の作品と類似しているところは、ある意味とても面白い。 ただこの作品においては、序盤から提示されるモチーフの数々や人物達の言動にそれぞれ物語上の明確な意味があり、それが主人公のキャラクターアークの変遷や完成にしっかり関係してくるので、色々思わせぶりだったけれど空振りな結末だったという残念な読後感ではなかった。 次作品以降で、父親の手厚いサポートを離れ独り立ちしてからが、イシャナ・ナイト・シャマラン監督の真価を試される本当の機会になるだろう。 ちなみに、監督や脚本だけでなく出演もしたがる監督の父は、今作においては出演せず裏方に徹していたようだ。 娘のデビュー作ということもあって今回は遠慮したのかもと思いつつ、親子同士でのやりとりを想像してニヤニヤしてしまった。 https://filmarks.com/movies/114557/reviews/183391193

  • 紙ひこうき | Paperman (2012)

    4.5/5.0 ディズニー製作による、台詞なしの短篇アニメーション。 主人公の男性が、突風によって出逢った美しい女性のことを忘れられずにいたが、その女性を職場の窓越しに発見し、自身に気づいてもらうために紙ひこうきを折って何度も飛ばすものの、上手く届かず… という物語。 劇伴の素晴らしさもあいまって、台詞がなくとも、主人公に芽生えた想いの強さや焦りがしっかりと伝わってくる。 劇中における紙ひこうきとはつまり、人が人へ届けたい (そしてなかなか届かない) 想いのメタファーだと分かるが、これこそディズニーだと思わずにいられない展開をする中盤以降の演出がとても楽しく感動的だ。 人々が抱く純粋な想いにはとてつもない力が秘められていて、それは時に魔法のように顕在するのだということなのだろう。 そのテーマには、アニメーション映画の黎明期から魔法のようにドラマティックな物語を描き続けてきたディズニーの矜持を感じる。 伝統的な2Dドローイングと最新の3DCGモデリングという手法を掛け合わせるという描画のスタイルも、ディズニーにしかなし得ない伝統と革新の共存とは何か、という自らへの問いと解の提示なのだろう。 物語の中で魔法が顕在した終盤においても、男性はそれを理解することも受け入れることもできず困惑するのに対して、女性の方はその魔法が自分をどこに導こうとしているのかを直感で理解し受け入れるという演出の対比もまた、とてもチャーミングで愛らしい。 原題の「Paperman」には、職場で書類の山に向き合うだけの日々に満足できていない主人公という意味と、その主人公と出逢う女性にとっての「あの書類の人」という意味がかかっているのだと分かり、タイトルまで素敵だなんてズルい! と感じた。 https://filmarks.com/movies/54096/reviews/152627439

  • 極悪女王 | The Queen of Villains (2024)

    4.3/5.0 1980年代の日本における女子プロレス史を下敷きに、ヒール役として名を馳せたダンプ松本 = 松本香を主人公として、他の実在プロレスラー達も多数登場しながら描かれる全5話のNETFLIXオリジナルドラマ。 企画・脚本を鈴木おさむが、総監督を白石和彌が担っている。 NETFLIXの資金力があってこそなのかも知れないが、主要な登場人物を演じたゆりやんレトリィバァ・唐田えりか・剛力彩芽といった俳優達は、本撮影より数年も前から身体面のトレーニングを行い、ドラマ内の試合シーンをほとんどスタントなしで演じ切ったとのこと。 一概にスタントを頼ることが悪で本人が演じることが良いといったことではなく、危険なアクションを俳優の代わりに担うスタントという職業には素晴らしい価値があると思うが、このドラマにおいては、俳優達がかなりハードなアクションの部分も含めて演じ切ることで、各々の俳優が演じるプロレスラーの心の葛藤や逡巡等の精神性までを自身に取り込んでいるかのような高いリアリティを感じた。 芸人でありながらオーディションに応募し主演を獲得したゆりやんレトリィバァの凄まじい存在感と迫真の演技はもちろんとして、唐田と剛力はプライベートな部分で世間を騒がせてしまった影響でここ数年のキャリアが停滞していたようだが、この作品における彼女達の俳優としての存在感は純粋に素晴らしく、これを機に俳優として本来あるべき注目が集まり、良いキャリアを進んでいくのではないかと感じた。 当時プロレスファンのみならず社会現象的な注目度をもって羨望や脚光を浴びたライオネス飛鳥や長与千種を物語の中心とするのではなく、彼女達の同期生でありながら彼女達のようなスーパースターにはなれず、それを引き立てるヒールという役を選んだ (むしろ選ばざるを得なかった) ダンプ松本を主人公にするという着想が素晴らしい。 大きな脚本展開としては史実に基づきながらもドラマ的脚色は少なからずあると思うが、常にスポットライトの中心にいたヒーロー達にも、スポットライトを浴びるために望まざる選択をした者達にも、等しく苦難や葛藤や屈辱があったことが明らかになっていく物語には胸がとても熱くなった。 演出全般に関しては総じて安定的で、脇を固める俳優達も含めた登場人物達の演技を活きいきと映すカメラワークやカッティングがされていたと思うが、個人的には、劇伴だけがちょっと前に出過ぎていたように感じた。 のどかさを描きたいシーンではのどかな曲を、悲しさを描きたいシーンでは悲しい曲を… といった風に、今はこういうシーンですからね〜 というガイドラインのような聴こえ方の楽曲がやや多く、もう少しだけ俳優達の演技や鑑賞者の鑑賞眼を信じて、想像や感情の起伏の余白が観る側の心に残るような抑制的な演出のシーンの比率を高くしても、この作品の素晴らしさは損なわれなかったのではないかと思う。 https://filmarks.com/dramas/11473/15912/reviews/15512016

  • アグリーズ | Uglies (2024)

    2.1/5.0 「チャーリーズ・エンジェル」や「ターミネーター4」を手掛けたマックG監督によるNETFLIXオリジナルのSF映画で、英語圏の文学カテゴリでいうところのYA = ヤングアダルト (12〜18歳) 層をターゲットに書かれた小説を原作としており、主人公やその周辺の登場人物達もYA世代という設定。 世界規模の破滅的な戦争を経て、他者への優越感や劣等感といった思考を抱くことが人類の争いの原因であったという結論のもと、16歳になると強制的に究極的な外見を手に入れる整形手術を受けることで、人類は平等な世界を実現した… という、ユートピアなのかディストピアなのか微妙な未来世界が舞台となっている。 優れたSFはその寓話的な物語を通して現代社会の問題を批評的に描写するものだが、この映画の原作者が着目したテーマは明らかに、若者達を取り巻くルッキズムの問題であると分かる。 「アグリーズ (Uglies)」とは見た目が醜いもの達 = 整形手術を受ける前の主人公達と思わせておきつつ、真に醜悪な存在とは人々の思考を (見えないところで) 支配している者達なのではないか、という作者の主張とツイストのあるタイトルなのだろう。 外見の完璧さだけが本当に重要なのか? その基準に達するためだけに他の色々を犠牲にするような人生や社会に、真の心の自由は存在するのか? といった問題について、若者達だけでなく社会全体で考えることには価値があるとは思う。 が、この映画においては、その寓話化のレベルが少し稚拙というか、ちぐはぐな印象をおぼえてしまった。 SF的設定の細かい粗をつつくときりが無いので控えるが、避けがたいほど致命的な映画作劇上の問題だと感じた部分が1点だけ。 整形手術を受ける前の主人公やその友人達が自分達の外見を「寄り目」や「デカ鼻」等とやたらに卑下するのだが、主人公を演じたジョーイ・キングも、その恋人役のチェイス・ストークスや友人役のブリアンヌ・チューも、私のような一般人からすれば素晴らしく整った美しい顔立ちと魅力のある俳優達なので、整形手術を受けて完璧にならなきゃ… というキャラクター達の動機の説得力が全く感じられなかった。 また、映画の中盤からは整形手術を拒否し独自のコミュニティに生きる人々も登場するのだが、そのリーダー格の青年の外見もまた非の打ち所がないほどの精悍さで、それだけ外見に恵まれて生まれれば手術を受ける生き方を選ぶはずがないよね… と興ざめだった。 かといって、外見に明らかな不備やハンデを持つ俳優だけをわざわざオーディションで招集し選び抜くということもビジネスとして難しかっただろう。 映画の物語の中というより、その製作の過程や裏側にこそ、この作品が描きたかったであろうルッキズム問題の闇が大きく横たわっていたのではないか。 あからさまに続篇ありきで中途半端な終劇も含め、もやもやな読後感が強く残る作品だった。 https://filmarks.com/movies/117570/reviews/182849641

  • クワイエット・プレイス: DAY 1 | A Quiet Place: Day One (2024)

    4.2/5.0 ジョン・クラシンスキー監督による世界観設定が斬新なホラー映画「クワイエット・プレイス」シリーズの第3作目にして、その世界が始まった日を描いた作品。 1作目・2作目はアメリカの広大かつ人口が少ない地域での物語だったが、今作は大都会のニューヨークが舞台になっている。 地球上のあらゆる場所に降り注いだ隕石とともに出現した、視覚はないが聴覚と殺傷能力が超発達した異生物の侵略によって、人類文明は瞬時に崩壊する。 主人公は末期がんを患い、遠からず自身に死が訪れることを理解していたが、異生物達の問答無用の殺意に直面し、残された命をどう使うのかを考え、行動する。 主演俳優のルピタ・ニョンゴの圧倒的な演技力は特筆すべきで、主人公が感じる恐怖・心の揺れ・決意・痛み・そして喜びといった感情の全てが、安易な絶叫や台詞ではなく表情や身体的演技で見事に伝わってくる。 主人公の最期の旅の友となる人物を助演したジョセフ・クインは「ストレンジャー・シングス」で注目された比較的若手の俳優だが、その演技もまた控えめながらとても存在感があり、物語の展開に様々な温度と起伏を作ることに貢献している。 終盤で2人がある場所にたどり着き、そこで束の間過ごす時間の演出がなかなか感動的で、生きるということの価値とは、こういった瞬間を大切に過ごすことなのかも知れないと沁み入った。 「音を立てたら怪物に即殺される」という、極めてシンプルながら斬新なルールの世界観は、この3作目でも当然ながら同じだが、よくよく考えれば設定の綻びが気になってきてしまうシーンもいくつかある。 ただ、大音響の迫力を楽しめることが前提の映画館にかける作品なのに、「沈黙と静寂」が最も重要になるという演出手法はすごくツイストが効いていて、その世界観と演出のアイデアに発明的な面白さがあるとあらためて感じた。 https://filmarks.com/movies/114793/reviews/181624687

  • OATS STUDIOS: ラッカ | Rakka (2017)

    3.8/5.0 ニール・ブロムカンプ監督と、彼が立ち上げた「OATS STUDIO」の製作による、実験的SF短篇集の1篇。 起承転結というよりは、核になるSF的着想や世界観設定の部分の具現化に焦点を絞ったスケッチのようなスタイルだが、どの短篇にも監督の独創性の高さと着想の原典を見ることができる。 圧倒的な科学力を持つグロテスクな異星人の襲来によって文明がほぼ崩壊してしまった地球で、僅かに生き残り抵抗を続ける人類を描くポストアポカリプスSF。 ジェームズ・キャメロンの「ターミネーター」で描かれた、機械に支配された未来世界で人類が抵抗するシーンに対するリスペクトがあるように感じる。 主演をシガニー・ウィーバーが担っているところにも、80〜90年代SF映画に対する監督の強烈な愛を見ることができる。 ニール・ブロムカンプ監督の個性に、無骨で質量感のあるSFガジェットの描き方と、圧倒的で容赦のない暴力性があることは多くの人が認めるところだと思うが、この作品でもそれが際立っている。 特に、中盤にある異星人から地球人への降伏勧告のシーンは、どうやったらこんな地獄のようにグロテスクな画が着想できるのだろうと驚いてしまった。 OATS STUDIOの他篇と同じく、悪夢的世界観の提示と壮大なプロローグといったところで終劇するので、もっと観たい! という読後感になるが、この世界観が仮に2時間の長篇になるとしたら、鑑賞後は相当ハードに精神力を削られてしまうかも… とも思う。 https://filmarks.com/movies/74828/reviews/152620493

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