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- シグナル | The Signal (2014)
2.9/5.0 SF的な展開を想像させるサムネイル (扉絵) が気になり鑑賞した。 映画序盤は若者3人 (うち2人は恋人の関係) のロードムービーといったトーンで、派手だったりケレン味を感じる画はないが、丁寧で上質な広い風景の力も借りて物語世界に引き込む演出がされている。 ある人物がいると思われる場所へ3人が訪れるタイミングから物語が大きく動き、そこからがこの映画の本題的な話になってくるが、映画のジャンルごと急旋回するような演出は面白い。 ローレンス・フィッシュバーン以外の俳優達は (この映画の公開当時は) それほど著名ではなく、製作予算も多くなさそうだが、VFXの使いどころを絞ったり、実写風景の構図や照明の作り方が丁寧なので、低予算感はそれほど感じない。 謎がどんどん増えていくサスペンスSF的な話の運び方は面白く、終盤ではある程度それらの謎についての真実もしくはその示唆が提示される。 ただ、全部を事細かに説明して回収するというよりは、あれはもしかしたらこういうことだったのかもと想像の余地が広がる程度にとどまっているので、それを楽しいと感じるか消化不良に感じるかは観る人によって分かれそう。 結末ではいかにもSF的なある画が広がり、驚きもあるにはあるのだけれど、過去の古典SF小説や映画作品でさんざん使われてきたネタとほぼ重複しているので、個人的にはうーんちょっとなあと思ってしまった。 色々惜しいなと感じるところがありつつ、丁寧な作りで少し不思議な世界を見せてくれるSF小品といった印象の映画だった。 https://filmarks.com/movies/61556/reviews/176127871
- スター・トレック: ディスカバリー シーズン5 | Star Trek: Discovery Season 5 (2024)
3.6/5.0 シーズン1から継続して観賞してきたが、最終シーズンとなるシーズン5は、宇宙最大の謎のひとつともいえる「あらゆる生命体を創り出した存在」の痕跡を辿るという壮大な設定。 平たくいえばそれは「神」もしくはそれに類する存在であるといえるが、科学技術や論理とは違ったレイヤーで語られることが多いそれを、SF作品の筆頭ともいえるこのシリーズがどう描くのか、そもそもその存在がしっかりと科学的リアリティをもって描かれるのかというところにワクワクしながら観賞した。 厳密にいえば同様のテーマで製作されたスター・トレックシリーズの初期映画版 「スタートレックV 新たなる未知へ」があり、同作は世間的にも自分としても評価が低いが、それとは全然違った物語になっていて楽しめた。 宇宙艦ディスカバリーの船長である主人公および同艦のクルー達と、それに敵対する種族との宇宙探索 (文字通りの "STAR TREK" ) 競争が物語の主軸となるが、複数種族とキャラクターの思惑が入り乱れ、派手な戦闘やアクションだけではなく政治的にスリリングな対話や駆け引きもあるところは、このシリーズの特徴であり面白い。 物語のテーマは壮大ながら、キャラクター達の個別のドラマの筋書きはやや退屈だったところが残念ではあった。 ただ、膨大なボリュームとエピソードに渡るスター・トレックシリーズを長く観賞し続けてきたディープなファンにとっては、思わずえーっと声が出そうなある真実が終盤で明らかになり、自分は驚きながら少し感動してしまった。 自分自身には宗教信仰はなく、様々な種類の神話や伝説を単純な興味で知りたいと考える人間だが、強い信仰心を持ち特定の神を崇める人々にとっては、もしかしたらこのシーズン5のテーマは立ち入ってはならない領域にまで踏み込んでいる (神的な存在を冒涜している) と感じられるのかも知れないと思った。 自分にとっては、SF的視点や科学的視点をもったアプローチでそういった神話的世界に迫る物語には、その物語構成や納得感のある結末を見出す難易度が必然的に高くなる部分も含め、抗いがたい面白さがある。 https://filmarks.com/dramas/527/19940/reviews/14399983
- スター・トレック: ディスカバリー シーズン4 | Star Trek: Discovery Season 4 (2021)
3.5/5.0 「スター・ウォーズ」と並ぶ超有名SF作品ということもあり、映画版は第1作から最新作まで全て観賞していつつ、ドラマ版の全てまではフォローしきれていないが、こちらのドラマシリーズはシーズン1から視聴している。 長寿シリーズの宿命ともいえる時系列やイベントの混雑と整合性の問題を、シーズン2と3でのタイムトラベル (タイムジャンプの方が正確か) によってシリーズで最も遠い未来へ舞台を移すことで上手く回避したことがあり、予備知識が充分になくとも未知の時代の物語へすんなり入れるようになっている。 とはいえ、これまでのシリーズで語られてきたモチーフ・歴史・技術・生物種などの設定は共通なので、シリーズのファンであればなお楽しめる、巧みな設計だなと感じた。 初代のドラマシリーズや映画版はタイトル通りの「宇宙の探索 (STAR TREK)」に重きが置かれており、異人種との戦争よりは対話の重要さを、破壊よりも発見の素晴らしさが描かれていたが、久しぶりにその原点への回帰的な脚本になっていたように思う。 ド派手でダイナミックな画や激しいアクション演出に慣れてしまったSFファンには、少し地味で見せ場が乏しいと感じるエピソードもあるかも知れないが、個人的には「スター・トレック」ってもともとこういうシリーズだったなと思い出しながら、ポジティブに楽しむことができた。 特に、終盤で描かれる未知の生物種との対話方法の模索とその解決法については、とても純度が高いSF的な興奮を覚えた。 「スター・トレック」の創作者であるジーン・ロッデンベリーが提示した、人類がいつか到達しなければならない高い規範と倫理が成熟した文明、それでも避けがたい哲学的衝突、そして対話と相互理解による解決の探求といったこのシリーズの特徴は、「スター・ウォーズ」シリーズとはまた違う貴重な価値があると思う。 最終シーズンとなるシーズン5も楽しみながら視聴していきたい。 https://filmarks.com/dramas/527/15740/reviews/14096104
- 探偵はBARにいる3 (2017)
2.1/5.0 自分が北海道出身で札幌にも住んでいたことがあり、1作目・2作目ともになかなか面白かったので3作目のこちらも観賞した。 探偵ものというジャンルは変わらずだけれど、1・2作目を手掛けた橋本一監督から吉田照幸監督に代わったことが大きく影響しているのか、これまでにあったハードボイルドなトーンがほとんどなくなり、フィルムのルックも安易でチープな見え方になってしまって、映画シリーズとしての個性が失われたように感じられてもったいない。 脚本や展開の規模感は前作までとそれほど大きな違いはなく、探偵を主演する大泉洋、その相棒役を助演する松田龍平、そして脇をかためる俳優達にもそれぞれのキャラクターがそれぞれの身体に宿った存在感がある。 主人公のキャラクターが2枚目と3枚目の狭間を常に右往左往しながら展開する、ドタバタな物語の面白さも顕在。 要所で入るアクション (泥くさい肉弾戦) シーンの演出は、海外映画の洗練されたそれと比較するとやはり見劣りしてしまうけれど、そこがこの映画シリーズの最も重要な要素だということでもないと思うので、ケチをつけることは控えたい。 1・2作目には確かにあった札幌・小樽・室蘭といった街の存在感とその叙情的な描かれ方は、この3作目では製作者達に重要ではないと判断されてしまったのかほとんど感じられるところがなく、監督の交代が良い方向に作用していないのではと感じた。 今作のヒロイン役を担う北川景子の表層的な演技とその稚拙さは、物語への没入感をバッサリ断絶させてしまうレベルで、何度も興ざめさせられてしまった。 体当たりの演技とか、等身大の自分を… とかいう都合のいい言葉が日本の映画やドラマのプロモーションでよく使われるが、裏を返せばそれは役柄とその人生が身体にインストールされていない状態と少ない引き出しでその場しのぎ的にぶっつけをしましたという実情の言い訳でしかないようにも受け取れ、今作の北川景子もまさにそういった表層的な所作を演技と勘違いしているような印象だった。 所属事務所や俳優本人の意向も多分にあったのだろうけれど、牢に身柄を拘置されておそらく数日経過しているという設定のシーンなのに、リップもアイメイクもブリブリ全力だったり… 例えフィクショナルな映画作品とはいえ、リアリティ度外視にも限度があるのではと呆れてしまった。 ハリウッド映画などでも、女性キャラクターがベッドで目覚めるシーンなのに何故かフルメイクとかはよくあるので、この作品に限っての話ではないのだけれど… 少なくとも外見的な美しさは多くの人が認めるところだろうけれど、ヒロイン役からは他にほとんど何も感じ取れなかったことがとても残念。 大泉洋と松田龍平というコンビのライフワーク的な作品になるポテンシャルも秘めたシリーズだっただろうけれど、これまでの作品でじっくり醸成されてきたシリーズの魅力とバランスが今作で色々崩れてしまったように感じられ、4作目がいまだ製作されていない (シリーズ終了になった?) ことにも少なからず影響しているのではないかと思ってしまった。 https://filmarks.com/movies/71804/reviews/152652962
- 探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点 (2013)
3.9/5.0 自分が北海道出身で札幌にも住んでいたことがあり、1作目がなかなか心に残ったのでこちらの2作目も観賞した。 ジャンルは前作に続いての探偵もので、主人公のモノローグが要所で挟まれる形のハードボイルドなトーンで演出されている。 シリアスとコメディが目まぐるしく切り替わるスタイルも前作から踏襲されているが、こちらの2作目の方が、前作から引き続き登場する主要キャラクター達の演技がより板についており、作劇として安定しているように感じる。 割と大掛かりなアクションを含むドタバタなシーンにもちょっと間の抜けた面白さがあるけれど、やはりハリウッド映画や韓国映画のように研ぎ澄まされた構図設計やリアリティがあるものではなく、そこを真面目に比較するとコント的に見えてしまうところはある。 脚本は1作目と打って変わってということではなく、規模感や展開も前作同様といったところだけれど、無闇にスケールアップして変な方向に行くよりは、順当な続篇として成功しているように感じる。 もしかしたら原作小説の内容に準拠しているのかも知れないが、中盤〜終盤にかけて賛否が分かれそうな政治的イデオロギーについての文脈が入ってきたところは、脚本の根底に大きく関係する部分ではないこともあり、この映画に取り入れる必然性は強くなかったのではないかと感じてしまった。 探偵が真相解明のために奔走する今作の事件の首謀者が明らかになるシーンでは、その意外性についての驚きもありながら、何よりも人間の器の小ささや他者と理解し合えないことの惨めさについて考えさせられる部分があった。 主演の大泉洋はキャラクターをしっかり自分のものにしていて、現実に即して見ればリアリティレベルが高くないこの映画の中においても、こういう人間がもしかしたらススキノでひとりぐらいは (まだ) 生きているかも知れないと思わせるような説得力がある。 その相棒役の松田龍平のふわふわ、ヘラヘラなキャラクターは前作と変わらずで、その唯一無二ともいえる存在感が面白い。 ヒロイン的な役を演じる尾野真千子の演技からは、前作の同ポジションを演じていた小雪とは格が違うと感じるほどの、俳優としての凄みを感じた。 多くの人間の内面には複層的な心情の折り重なりがあるものだが、表情や声、オーバーアクトではない微細な振る舞いでその複雑さを表現しており、劇中では語られない物語の奥行きについての想像が広がる。 日本においては最高レベルといっても間違いではないほどの素晴らしい俳優であることを再確認した。 ススキノが中心的な舞台でありながら、2作目の今作では室蘭市の風景も叙情的に描かれており、自分がかつて過ごした街と思い出が呼び起こされ、ノスタルジックに語られる映画終盤の物語と重ね合わせてしまい、涙ぐんでしまうシーンが何度もあった。 楽しいことよりもむごいことの方が多い時と場所に生まれたとしても、人は支え合うことで小さな幸せを積み重ねていくことができるのだというメッセージを受け取った。 https://filmarks.com/movies/53085/reviews/152652953
- 探偵はBARにいる (2011)
3.6/5.0 自分が北海道出身で札幌にも住んでいたことがあり、ススキノを舞台にしたこの映画に興味が湧いたので観賞した。 ジャンルとしてはタイトル通り探偵もので、旧き良きハードボイルドな演出を踏襲しながら、コメディタッチの軽妙さも要所にあり、全体的にとても懐かしい感触がある。 かといって主人公の探偵やその相棒が時代に取り残されたような生き方をしているわけでもないので、現代劇としての違和感はそれほどないというバランスが上手い。 ハリウッド映画と比較して観ればどうしても演出全般のチープさや段取りっぽさが気になってしまうけれど、ハリウッドとは違う日本映画のコンテクストが息づいてもいて、こういう映画にもまた別種の良さがあるなと感じる。 主人公の探偵を演じる大泉洋は、物語の舞台である北海道の出身ということもあってか、ところどころ方言も入った台詞回しも含め、風景や背景との馴染みがとても良い。 これまで大泉洋が演じてきた役柄の中でもかなりシリアスな部類のキャラクターだと思うけれど、彼らしいどこか抜けた軽薄な人間性と探偵のハードボイルドな生き様の切り替えがなかなか鮮やか。 その相棒役を演じる松田龍平は、良くも悪くもいつもの松田龍平という感じで、真剣なのか手抜きなのか、棒読みなのか感情を殺して喋っているのかつかみどころがなく、大泉洋のキャラクターとの対比もあって面白い。 脚本については、全体的にはミスリードや仕掛けが組み込まれていてなるほどと感じるところもあるが、リアリティについてはあまり感じられず、粗いなと感じる部分も多い。 ただ、探偵ものというジャンルにはリアリティよりもロマンやドラマ性の方がより求められるものだとも思うので、そういう意味では後者の部分がじっくり描かれていたこの作品の脚本や演出のアプローチは正しいのだろう。 ススキノや小樽といった舞台のノスタルジックで叙情的な描かれ方は素晴らしく、自分も同じ場所で過ごしていた頃の思い出が呼び起こされ、とてもセンチメンタルな気分になった。 主演や助演といった俳優達なしでは映画は成立しないが、この映画のもうひとつの主役は、札幌や小樽という街そのものなのだろう。 https://filmarks.com/movies/1706/reviews/152652938
- アトラス | ATLAS (2024)
2.8/5.0 人類に対するAIの反乱が起きた未来、その主導者を捉えるミッションに参加することになったデータアナリストを主人公にしたSFアクション。 NETFLIX映画ということもあり、湯水のごとく製作費が使われたであろうド派手で豪快なVFXによる映像演出が冒頭から終劇までずっと続く。 主演のジェニファー・ロペスは製作も兼任していることもあってか、絶対にこの映画を成功させなければいけないという気合というか製作者の気負いまで演技に表出してしまっているように感じるほどの熱演だった。 本篇中のほとんどの時間がパイロット乗り込み型ロボット (人間の体の大部分が見えなくなる構造) 内の主人公を中心に描かれるため、演者は必然的に大部分を表情で演じる必要があり、約120分の本篇のうち体感で7割ぐらいはドアップ×熱演のジェニファー・ロペスという読後感が残った。 決して大根役者だったりするわけではないのだけれど、とにかくその表情というより顔芸が超豪華なVFXに引けを取らないほどのやかましさで前面に出てくるので、終盤はさすがにやや食傷気味な気持ちになってしまった。 反乱するAIの主導者を演じるシム・リウについては、この作品で得た役どころと役割を忠実に演じていて好感がもてたが、異質な活動体としての個性をもう少しオリジナリティのある演技で表現してくれたらもっと楽しかったのになと感じた。 ここ数年の映画やドラマで取り扱われることが特に多いAIとその反乱というホットトピックを軸に、結末に至るまでそつなくまとめられている脚本だなとは感じたが、予想外で劇的だと感じる展開はほとんどなく、まあそうなりますよねという範囲を逸脱しない無難で安全運転な内容だったことがやや残念。 映像演出の観点だけでいえば、これまで星の数ほど作られてきたロボットが登場する名作映画・ドラマ・アニメの良いところだけをマッシュアップして構成したオールタイムベストのような演出になっていたように感じる。 どこかで見たな、知ってるぞと感じるモチーフやシーンが山盛りだけれど、それが絶え間なく続いて緩急が少ないのでやや退屈してしまうという意味でも、とてもベストアルバム的だ。 この映画より遥かに少ない予算と稚拙なVFX技術で作られた往年のロボット登場系SF映画達の方が、この映画ほどド派手な演出ではなくとも、この映画よりずっと面白かったなと感じてしまい、贅沢な時代になってしまったものだとしみじみ思った。 https://filmarks.com/movies/105177/reviews/175701449
- 第9地区 | District 9 (2009)
4.7/5.0 自分が最も注目している映画監督のひとり、ニール・ブロムカンプの長編映画デビュー作で、何度も観返すほど大好きな作品。 ニール監督の自主制作SF短篇の世界観設定がベースになっていて、ピーター・ジャクソンにその潜在的な才能を見出され、同氏が製作にも関わっている。 優れたSFはその物語を通して現代の社会問題を寓話的に鋭く活写すると言われるけれど、この映画はまさしくそういった部類の傑作SF映画のひとつといえるだろう。 舞台となる南アフリカのヨハネスバーグ上空に、異文明の超巨大な宇宙船と異星人が突如現れるが、大規模な戦争や侵略行為が始まるわけでもなく… という物語の導入から、SFファンとしては興奮せずにいられない。 そして自分達の本来の科学技術が使えなくなった異星人と地球人が、ヨハネスバーグで反目し合いながら生活をすることになるという設定は、深く考察するまでもなく、南アフリカにかつて存在した人種隔離政策のアパルトヘイトを想起させる。 異星人達を見下し最低限の敬意すら持ち合わせていなかった主人公が、その傲慢な態度から事故に巻き込まれ、自身が見下される立場に転げ落ちるどころか、最低限の生命の尊厳さえ奪われていくという物語が、圧倒的なハイスピードとハイテンションの演出で展開していく。 異文化・異人種との理想的な共生のあり方とはといった哲学的なテーマ性も感じさせながら、物語は残虐なまでにハードかつダイナミックで、初鑑賞時は息が苦しくなるほどだった。 また、映画の冒頭と終盤を主人公の関係者による物語の後日談のインタビュー映像で挟みながら、手持ちカメラ風記録映像、報道番組の取材風映像といった様々なトーンのフッテージが本篇中でザッピング的に組み合わされる演出がとても面白く、要所で世界観や物語の展開にリアリティを与えることにも寄与している。 20世紀後半の名作SF「ロボコップ」「エイリアン」等に監督が大きく影響を受けていることは明らかに分かるが、その演出手法のアップデートの姿勢が大胆かつ真摯で、単純な模倣を遥かに越えた新たなスタイルに昇華されている。 脚本の粗さ、特に科学的な納得性や根拠の甘さを指摘するSFファンは多く、確かにそういった部分の弱さも見過ごせない。 ただ、いちSFファンの自分は、科学考証の徹底的な正確性も重要ではあるけれど、それよりも発想の飛躍度合いやセンス・オブ・ワンダーの爆発力の方が重要だと考えるタイプで、この作品は前者の綻びよりも後者の素晴らしさが勝っているように感じる。 ニール・ブロムカンプ監督の映画はこの「第9地区」以降の作品も全て観賞していて、やはり多少の欠点もありながらもその圧倒的かつ退廃的な世界の構築力に毎回感銘を覚えているが、この長編デビュー作から受けた衝撃には及ばない。 「ロボコップ」や「エイリアン」シリーズの新作の監督に就任したかと思えば色々理由があって降板したりで、その後の監督としてのキャリアは順風満帆とは言えない雰囲気だけれど、いつかまたこの「第9地区」と同じぐらいにぶっ飛んだSFを生み出して欲しいと願っている。 続篇の「第10地区」も作るらしいという話を知ってからもう何年も経つが、ニール監督の大ファンなので、いつまででも待ちたい。 自分の感性が老いて鈍ってしまう前に、映画館でまたこの作品と同じレベルの衝撃を受けられたら、最高だ。 https://filmarks.com/movies/31424/reviews/152617730
- ゴジラ-1.0 | Godzilla Minus One (2023)
3.3/5.0 山崎貴監督が手掛けた作品でこれまで観賞してきたものについては、学芸会レベルの俳優達の演技、センス皆無なカメラワーク、陳腐極まる過剰で安直な劇伴の当て方、洗練とは程遠い脚本、直近でヒットしたハリウッド映画からの軽薄で表層的な剽窃、ほかもろもろ… 数分に一度レベルで観続けることが苦痛になるぐらいの興ざめポイントにぶち当たるため、自分とは最も相性が悪い監督のひとりとして意識的に敬遠していた。 が、この作品に関しては世間的な評判がこれまでになく高く、信頼のおける友人数人からも監督の過去作品の評価とは別にして観た方がいいと推奨されたこともあり、気持ちを切り替えて観賞してみた。 確かに、山崎監督の過去作品には見られなかった総合的な完成度の高さがあるように感じられた。 ゴジラ関連の映画はハリウッドでもすっかりお馴染みの超有力シリーズとなり、キングコングという好敵手なキャラクターも得て大ヒットしているが、それらは良くも悪くも日本で生まれたゴジラというキャラクターの原点からはだいぶ遠いところまでストーリーやキャラクター性が発展している。 それに対してこちらの作品は、描かれる時代と舞台を初代映画とかなり近いところに設定しながら、物語自体はこれまでのシリーズから独立しリセットされていて、かつ初代映画版にあったゴジラというモチーフに込められた隠喩的テーマについてはしっかり承継するという、とても巧みな原点回帰が成し遂げられている。 日本人ならその多くが聴いたことがあるであろうゴジラのテーマ曲を含む劇伴の当て方についても、これまでの山崎監督作品のような過剰さや安直さは控えめで、淡々としかし重々しいリフレインが要所で効果的に使われており、ドラマ全体の緊迫感の演出を下支えしている。 あのテーマ曲がどのシーンのどのタイミングで使われるのだろうという期待にも、ここで使うのがやっぱり正解だよねというところでしっかりと使われ、映画的興奮が確かにある。 俳優達の演技については、やはりやや過剰だったり演出的な未成熟が露呈している部分はあったけれど、それでも山崎監督の過去作品と比較すれば、監督による演出のコントロールが効いているように思う。 日本映画に出演する芸能人や俳優達の演技レベルのバラつきの問題は、自分が邦画を敬遠してしまう理由のひとつだけれど、俳優本人達の力量の問題というよりは、演出にどれだけの芯があるかの問題が大きいのだろうとあらためて感じた。 アカデミー賞でも高く評価された視覚効果についてはケチをつけるようなところはほとんどなく、ハリウッド映画とは比べるべくもない低予算でこれだけのダイナミックな映像を作り上げたスタッフの方々は、それこそ世界中の映画人から手放しで称賛されて然るべきだと思う。 ただ、山崎監督自身が視覚効果担当の出身でそこが氏の強みだという前提があるにしても、視覚効果ではなく俳優達の演技が画の中心になるシーンの演出については、もっともっと洗練されるべき余地があるように思う。 この作品単体に限っていえば高品質で興奮できる映画体験をさせてもらえたけれど、山崎貴監督の作品については、今後も疑心暗鬼で観賞することになるだろうなと感じている。 そう思わざるを得ないほど、山崎氏の過去作品に裏切られガッカリしたトラウマ的な体験があり、まだ払拭できていない。 何より、現在の日本における映画の第一人者といえばという話題になった時に、山崎氏の名前があがることが多いということ自体が、日本の映画業界として良いこととはどうしても思えない。 ただ、総合芸術ともいわれる映画の世界において、視覚効果という一点に限ってであっても、世界に認められたという実績は素晴らしく、その点においては山崎氏に敬意を表したい。 https://filmarks.com/movies/106496/reviews/174334941
- コカイン・ベア | Cocaine Bear (2023)
2.7/5.0 ある理由によりコカインを大量に摂取しハイになってしまった熊が人々を襲う… という、単純明快なパニックホラー。 「事実に基づく物語」という提示があり、実際に1985年の米国で熊がコカインを摂取した事件があったらしいが、その熊は人を襲わず薬物の過剰摂取で死亡したらしい。 風格のある映画によくある著名な古典小説や偉人の言葉の教訓的な引用の演出がこの作品の冒頭にもあるが、「SOURCE: WIKIPEDIA (ウィキペディアより)」と引用の最後に出るタイミングで、リアリティがとか信憑性がとか考えながら真面目に観るような映画じゃないんでそこんとこよろしくなという製作者達からのメッセージを受け取った。 ストーリーとしてはほとんどあってなきようなもので、舞台となる森に様々な理由から足を踏み入れてしまった人々が次々と熊に襲われる、以外に特筆すべき内容はほぼない。 出演俳優達はいずれもそれぞれの役と役割を好演していたと思うが、脚本部分での詰めの甘さが感じられ、作劇上の視点や薄めなサブストーリーの展開があっちこっちに散りがちで、アンサンブルとして単純にあまり上手くいっていないように感じた。 バイオレンスシーンについては映画冒頭から終盤まで何度もあるのだが、グロテスクさや悪趣味さは予想よりもかなり控えめで、そこはふざけず真面目に作るんかいという突っ込みの感情が湧いてしまった。 欠点は目立ちつつも、愛すべきアホなパニックホラーといった読後感が残る作品だった。 https://filmarks.com/movies/107036/reviews/175316759









