

Search Result
271 results found with an empty search
- 紙ひこうき | Paperman (2012)
4.5/5.0 ディズニー製作による、台詞なしの短篇アニメーション。 主人公の男性が、突風によって出逢った美しい女性のことを忘れられずにいたが、その女性を職場の窓越しに発見し、自身に気づいてもらうために紙ひこうきを折って何度も飛ばすものの、上手く届かず… という物語。 劇伴の素晴らしさもあいまって、台詞がなくとも、主人公に芽生えた想いの強さや焦りがしっかりと伝わってくる。 劇中における紙ひこうきとはつまり、人が人へ届けたい (そしてなかなか届かない) 想いのメタファーだと分かるが、これこそディズニーだと思わずにいられない展開をする中盤以降の演出がとても楽しく感動的だ。 人々が抱く純粋な想いにはとてつもない力が秘められていて、それは時に魔法のように顕在するのだということなのだろう。 そのテーマには、アニメーション映画の黎明期から魔法のようにドラマティックな物語を描き続けてきたディズニーの矜持を感じる。 伝統的な2Dドローイングと最新の3DCGモデリングという手法を掛け合わせるという描画のスタイルも、ディズニーにしかなし得ない伝統と革新の共存とは何か、という自らへの問いと解の提示なのだろう。 物語の中で魔法が顕在した終盤においても、男性はそれを理解することも受け入れることもできず困惑するのに対して、女性の方はその魔法が自分をどこに導こうとしているのかを直感で理解し受け入れるという演出の対比もまた、とてもチャーミングで愛らしい。 原題の「Paperman」には、職場で書類の山に向き合うだけの日々に満足できていない主人公という意味と、その主人公と出逢う女性にとっての「あの書類の人」という意味がかかっているのだと分かり、タイトルまで素敵だなんてズルい! と感じた。 https://filmarks.com/movies/54096/reviews/152627439
- 極悪女王 | The Queen of Villains (2024)
4.3/5.0 1980年代の日本における女子プロレス史を下敷きに、ヒール役として名を馳せたダンプ松本 = 松本香を主人公として、他の実在プロレスラー達も多数登場しながら描かれる全5話のNETFLIXオリジナルドラマ。 企画・脚本を鈴木おさむが、総監督を白石和彌が担っている。 NETFLIXの資金力があってこそなのかも知れないが、主要な登場人物を演じたゆりやんレトリィバァ・唐田えりか・剛力彩芽といった俳優達は、本撮影より数年も前から身体面のトレーニングを行い、ドラマ内の試合シーンをほとんどスタントなしで演じ切ったとのこと。 一概にスタントを頼ることが悪で本人が演じることが良いといったことではなく、危険なアクションを俳優の代わりに担うスタントという職業には素晴らしい価値があると思うが、このドラマにおいては、俳優達がかなりハードなアクションの部分も含めて演じ切ることで、各々の俳優が演じるプロレスラーの心の葛藤や逡巡等の精神性までを自身に取り込んでいるかのような高いリアリティを感じた。 芸人でありながらオーディションに応募し主演を獲得したゆりやんレトリィバァの凄まじい存在感と迫真の演技はもちろんとして、唐田と剛力はプライベートな部分で世間を騒がせてしまった影響でここ数年のキャリアが停滞していたようだが、この作品における彼女達の俳優としての存在感は純粋に素晴らしく、これを機に俳優として本来あるべき注目が集まり、良いキャリアを進んでいくのではないかと感じた。 当時プロレスファンのみならず社会現象的な注目度をもって羨望や脚光を浴びたライオネス飛鳥や長与千種を物語の中心とするのではなく、彼女達の同期生でありながら彼女達のようなスーパースターにはなれず、それを引き立てるヒールという役を選んだ (むしろ選ばざるを得なかった) ダンプ松本を主人公にするという着想が素晴らしい。 大きな脚本展開としては史実に基づきながらもドラマ的脚色は少なからずあると思うが、常にスポットライトの中心にいたヒーロー達にも、スポットライトを浴びるために望まざる選択をした者達にも、等しく苦難や葛藤や屈辱があったことが明らかになっていく物語には胸がとても熱くなった。 演出全般に関しては総じて安定的で、脇を固める俳優達も含めた登場人物達の演技を活きいきと映すカメラワークやカッティングがされていたと思うが、個人的には、劇伴だけがちょっと前に出過ぎていたように感じた。 のどかさを描きたいシーンではのどかな曲を、悲しさを描きたいシーンでは悲しい曲を… といった風に、今はこういうシーンですからね〜 というガイドラインのような聴こえ方の楽曲がやや多く、もう少しだけ俳優達の演技や鑑賞者の鑑賞眼を信じて、想像や感情の起伏の余白が観る側の心に残るような抑制的な演出のシーンの比率を高くしても、この作品の素晴らしさは損なわれなかったのではないかと思う。 https://filmarks.com/dramas/11473/15912/reviews/15512016
- アグリーズ | Uglies (2024)
2.1/5.0 「チャーリーズ・エンジェル」や「ターミネーター4」を手掛けたマックG監督によるNETFLIXオリジナルのSF映画で、英語圏の文学カテゴリでいうところのYA = ヤングアダルト (12〜18歳) 層をターゲットに書かれた小説を原作としており、主人公やその周辺の登場人物達もYA世代という設定。 世界規模の破滅的な戦争を経て、他者への優越感や劣等感といった思考を抱くことが人類の争いの原因であったという結論のもと、16歳になると強制的に究極的な外見を手に入れる整形手術を受けることで、人類は平等な世界を実現した… という、ユートピアなのかディストピアなのか微妙な未来世界が舞台となっている。 優れたSFはその寓話的な物語を通して現代社会の問題を批評的に描写するものだが、この映画の原作者が着目したテーマは明らかに、若者達を取り巻くルッキズムの問題であると分かる。 「アグリーズ (Uglies)」とは見た目が醜いもの達 = 整形手術を受ける前の主人公達と思わせておきつつ、真に醜悪な存在とは人々の思考を (見えないところで) 支配している者達なのではないか、という作者の主張とツイストのあるタイトルなのだろう。 外見の完璧さだけが本当に重要なのか? その基準に達するためだけに他の色々を犠牲にするような人生や社会に、真の心の自由は存在するのか? といった問題について、若者達だけでなく社会全体で考えることには価値があるとは思う。 が、この映画においては、その寓話化のレベルが少し稚拙というか、ちぐはぐな印象をおぼえてしまった。 SF的設定の細かい粗をつつくときりが無いので控えるが、避けがたいほど致命的な映画作劇上の問題だと感じた部分が1点だけ。 整形手術を受ける前の主人公やその友人達が自分達の外見を「寄り目」や「デカ鼻」等とやたらに卑下するのだが、主人公を演じたジョーイ・キングも、その恋人役のチェイス・ストークスや友人役のブリアンヌ・チューも、私のような一般人からすれば素晴らしく整った美しい顔立ちと魅力のある俳優達なので、整形手術を受けて完璧にならなきゃ… というキャラクター達の動機の説得力が全く感じられなかった。 また、映画の中盤からは整形手術を拒否し独自のコミュニティに生きる人々も登場するのだが、そのリーダー格の青年の外見もまた非の打ち所がないほどの精悍さで、それだけ外見に恵まれて生まれれば手術を受ける生き方を選ぶはずがないよね… と興ざめだった。 かといって、外見に明らかな不備やハンデを持つ俳優だけをわざわざオーディションで招集し選び抜くということもビジネスとして難しかっただろう。 映画の物語の中というより、その製作の過程や裏側にこそ、この作品が描きたかったであろうルッキズム問題の闇が大きく横たわっていたのではないか。 あからさまに続篇ありきで中途半端な終劇も含め、もやもやな読後感が強く残る作品だった。 https://filmarks.com/movies/117570/reviews/182849641
- クワイエット・プレイス: DAY 1 | A Quiet Place: Day One (2024)
4.2/5.0 ジョン・クラシンスキー監督による世界観設定が斬新なホラー映画「クワイエット・プレイス」シリーズの第3作目にして、その世界が始まった日を描いた作品。 1作目・2作目はアメリカの広大かつ人口が少ない地域での物語だったが、今作は大都会のニューヨークが舞台になっている。 地球上のあらゆる場所に降り注いだ隕石とともに出現した、視覚はないが聴覚と殺傷能力が超発達した異生物の侵略によって、人類文明は瞬時に崩壊する。 主人公は末期がんを患い、遠からず自身に死が訪れることを理解していたが、異生物達の問答無用の殺意に直面し、残された命をどう使うのかを考え、行動する。 主演俳優のルピタ・ニョンゴの圧倒的な演技力は特筆すべきで、主人公が感じる恐怖・心の揺れ・決意・痛み・そして喜びといった感情の全てが、安易な絶叫や台詞ではなく表情や身体的演技で見事に伝わってくる。 主人公の最期の旅の友となる人物を助演したジョセフ・クインは「ストレンジャー・シングス」で注目された比較的若手の俳優だが、その演技もまた控えめながらとても存在感があり、物語の展開に様々な温度と起伏を作ることに貢献している。 終盤で2人がある場所にたどり着き、そこで束の間過ごす時間の演出がなかなか感動的で、生きるということの価値とは、こういった瞬間を大切に過ごすことなのかも知れないと沁み入った。 「音を立てたら怪物に即殺される」という、極めてシンプルながら斬新なルールの世界観は、この3作目でも当然ながら同じだが、よくよく考えれば設定の綻びが気になってきてしまうシーンもいくつかある。 ただ、大音響の迫力を楽しめることが前提の映画館にかける作品なのに、「沈黙と静寂」が最も重要になるという演出手法はすごくツイストが効いていて、その世界観と演出のアイデアに発明的な面白さがあるとあらためて感じた。 https://filmarks.com/movies/114793/reviews/181624687
- OATS STUDIOS: ラッカ | Rakka (2017)
3.8/5.0 ニール・ブロムカンプ監督と、彼が立ち上げた「OATS STUDIO」の製作による、実験的SF短篇集の1篇。 起承転結というよりは、核になるSF的着想や世界観設定の部分の具現化に焦点を絞ったスケッチのようなスタイルだが、どの短篇にも監督の独創性の高さと着想の原典を見ることができる。 圧倒的な科学力を持つグロテスクな異星人の襲来によって文明がほぼ崩壊してしまった地球で、僅かに生き残り抵抗を続ける人類を描くポストアポカリプスSF。 ジェームズ・キャメロンの「ターミネーター」で描かれた、機械に支配された未来世界で人類が抵抗するシーンに対するリスペクトがあるように感じる。 主演をシガニー・ウィーバーが担っているところにも、80〜90年代SF映画に対する監督の強烈な愛を見ることができる。 ニール・ブロムカンプ監督の個性に、無骨で質量感のあるSFガジェットの描き方と、圧倒的で容赦のない暴力性があることは多くの人が認めるところだと思うが、この作品でもそれが際立っている。 特に、中盤にある異星人から地球人への降伏勧告のシーンは、どうやったらこんな地獄のようにグロテスクな画が着想できるのだろうと驚いてしまった。 OATS STUDIOの他篇と同じく、悪夢的世界観の提示と壮大なプロローグといったところで終劇するので、もっと観たい! という読後感になるが、この世界観が仮に2時間の長篇になるとしたら、鑑賞後は相当ハードに精神力を削られてしまうかも… とも思う。 https://filmarks.com/movies/74828/reviews/152620493
- OATS STUDIOS: 密林の悪魔 | Firebase (2017)
3.7/5.0 ニール・ブロムカンプ監督と、彼が立ち上げた「OATS STUDIO」の製作による、実験的SF短篇集の1篇。 起承転結というよりは、核になるSF的着想や世界観設定の部分の具現化に焦点を絞ったスケッチのようなスタイルだが、どの短篇にも監督の独創性の高さと着想の原典を見ることができる。 戦時下のベトナムにおいて、怪奇現象の発生と謎の生命体の出現があり、その攻撃によって壊滅的な被害を受けた米軍はその脅威にどう立ち向かうのか… という物語。 私達が知っている史実とは全く違ったベトナム戦争が描かれるところに、架空戦記のようなif発想の魅力があり、そのリアリティある画にも見どころがある。 ある兵士の回想シーンで一瞬だけ登場する未知の戦闘機や不気味な超巨大戦車の描かれ方には、不条理な悪夢のような禍々しさがあってとても面白い。 主人公の軍人が持っているらしい謎の能力をもって脅威と向き合い反撃する… といったところで幕切れになり、その能力についても想像の余地が残りまくるので、(良い意味で) もっと観せてよ! という読後感が残る。 https://filmarks.com/movies/99454?mark_id=152700372
- OATS STUDIOS: 融合体 | Zygote (2017)
3.9/5.0 ニール・ブロムカンプ監督と、彼が立ち上げた「OATS STUDIO」の製作による、実験的SF短篇集の1篇。 起承転結というよりは、核になるSF的着想や世界観設定の部分の具現化に焦点を絞ったスケッチのようなスタイルだが、どの短篇にも監督の独創性の高さと着想の原典を見ることができる。 この作品は、極寒地域にある閉鎖的環境の炭鉱を舞台として、生物を殺害・融合し巨大化する怪物の脅威から逃げる2名の人物を描く物語。 その設定にはジョン・カーペンター監督による名作SFホラー「遊星からの物体X (The Thing)」に対するリスペクトが全篇から感じられながら、緊迫感溢れる演出の部分ではジェームズ・キャメロンの「ターミネーター」シリーズへのオマージュに感じられるところもある。 なおかつニール・ブロムカンプ監督ならではのSFガジェットの質量感と、破壊者の容赦ない暴力性もあって、とても濃度が高い短篇になっている。 主人公を演じるのは、子役時代からハリウッドで活躍しながらすっかり大人になったダコタ・ファニングで、そのキャスティングのセンスがとてもいい。 ダコタ・ファニングが放つ無垢な存在としての美しさが際立つ前半と、ある真実が明らかになってからの後半の演技の変化がとても面白く、一流の俳優が持ちうる演技の説得力はすごいものだなと再確認した。 約20分の短篇では少し物足りず、2時間の長篇で観てみたいとも感じたが、もしかしたら1時間程度の中篇ぐらいが丁度いいのかも知れない。 https://filmarks.com/movies/81782/reviews/152700351
- GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊 | Ghost in The Shell (1995)
4.9/5.0 士郎正宗によるSF漫画を原作に、伊藤和典が脚本を、押井守が監督を手掛けた1995年公開のアニメ映画。 大友克洋が自身の漫画を原作に製作した「AKIRA (1988)」と並んで、SFアニメーションの歴史の転換点となり世界中の製作者に大きな影響を与え、多くのフォロワーを生んだ作品。 綺羅びやかなだけではなく、カオティックで退廃的な未来都市の風景の描写は、それそのものに主役のような強烈な存在感と、唯一無二の美しさがある。 作品の公開から約30年 (漫画原作の初出からは35年) 経った今観ても、21世紀の現在とこの先の未来を予見していたかのようなテーマの強さは古びていない。 作中で「義体」と呼ばれる人工身体が普及した世界において、人間や生命の定義とは何か、どこまでサイボーグ化されたらそれは人間と呼べなくなるのかといった哲学的で重い問いが提示される。 また、個人が一生をかけても習得できない膨大な情報 (人類の集合知ともいえる) が既にネットにアップロードされている現在において、原始の海から私達の祖先となる物理生命が発生したように、情報の海から自律的な意識という生命体が生まれる可能性を誰も否定できないのではないかという問いもまた重い。 押井守は原作の内容を大幅に脚色する作風でよく知られ、よくいえば換骨奪胎、あるいは解釈の暴走だという批評もある。 この作品においては、原作の再解釈や演出的な拡張はありながらも、その世界観や展開に則った絶妙なバランスの構成が、伊藤和典の脚本によって成功している。 川井憲次による劇伴も素晴らしく、マシンやサイボーグが日常的に存在する未来における「ゴースト (生命の意識や魂を指す)」の存在を信じさせてしまうような力をもった、土着的で有機的な質感がある。 この映画の鑑賞後にずっしりと残る読後感は、画や音の演出の素晴らしさだけではない、SFと哲学が限りなく近接することで形を成した、遠からず人類が直面し回答しなければならない問いの重量なのだろうと思う。 主人公の草薙素子の声を素晴らしい存在感で演じられた田中敦子さんの、ご冥福をお祈りします。 https://filmarks.com/movies/12523/reviews/152629372
- ベラ・ボーンの監督作 | A Film By Vera Vaughn (2015)
2.2/5.0 ワンアイデア10分のホラー短篇。 映画監督の主人公が自宅で作品の編集をしていると、届いたメールに自分自身の姿が映った動画があり… という導入は面白い。 中盤で脚本的に大きな飛躍があり驚きはしたのだが、そこには意外性はあっても納得感があまりなく、終盤や結末も同様。 ただ、設定のアイデアに驚かされてもっとこの物語を深く知りたいと感じたところで終劇するという点は、短篇映画ならではの面白さでもある。 https://filmarks.com/movies/102306/reviews/181171637
- 野獣 | Fauve (2018)
4.1/5.0 15分程度の短篇ながら、強い読後感が残るカナダの映画。 2人の少年の演技とは思えないほど自然でリアリティのある演技、色彩が抑えられた風景、狙いが明確で強い構図、どれもレベルが高い。 無垢な生物だけが持つ唯一無二な美しさと危うさは、いつそのバランスが崩れてもおかしくない状態で共存していて、だからこそ尊いということなのだろうか。 誰もがかつてそういう存在であったことを多くの鑑賞者に思い出させ、複雑な内省を促す力を秘めている作品だと感じた。 https://filmarks.com/movies/82427/reviews/181171591









