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  • エターナル・サンシャイン | Eternal Sunshine of the Spotless Mind (2004)

    4.2/5.0 名作といわれるミュージックビデオやTV-CMを多数手がけてきたミシェル・ゴンドリーの監督作品ということで、監督の持ち味であるシュールなアナログセットを用いた大胆な演出に期待して鑑賞したが、期待通りの画的な驚きを得られて、とても価値のある映画体験だった。 ジャンルで分類すればラブストーリーではあるが、失恋の心の痛みを記憶ごと消去する装置という寓話的なマクガフィンを脚本の軸に用いることで、その記憶 (思考) を断片的に巡るカオスな旅と精神的な苦悩が見事な構成力の画と編集で可視化されており、これはなかなか他の映画監督に真似できない強烈な才能だなとあらためて感じる。 クレイジーな役を演じられることの第一人者といってもいいであろう俳優のジム・キャリーが、この作品では全く冴えない一般的な人間として主演しているが、物語が進んでいくにつれ、なぜ彼がこの映画の主演に抜擢されたのか、それが最適なキャスティングだったのかが分かってくるところがとても面白い。 共演のケイト・ウィンスレットも、奇妙な人物だと自他ともに認められながらも、真実の自分はどんな人物なのかと悩む複雑な人間の内面を高い演技力で表現していて、人間性とは一面的に語れるものではないのだという部分に共感する人も多そう。 監督の奇抜な演出の面白さと俳優達の高い演技力により高いレベルで完成された映画だと感じつつ、個人的には、装置のギミックがない風景的なシーンを手持ちカメラでやや客観的に捉えた画の叙情感が、とても心に沁みた。 https://filmarks.com/movies/34849/reviews/152645116

  • ダムゼル / 運命を拓きし者 | Damsel (2024)

    2.8/5.0 この映画は「勇敢な王子と可憐な姫」だったり「闘う男たちと守られる女たち」といった前時代的な物語ではない、と冒頭ではっきりと前置きされる通り、搾取される立場に甘んじてきた女性の主人公 (と他の女性たち) がいかにしてその逆境を乗り越えるか、というところにフォーカスされたファンタジー映画だった。 ジェンダー問題についての旧来的な価値観の打破を目的としたフェミニズム的な思想が含まれた脚本なのだろうと思うが、そういったテーマを持つ物語の主役と製作総指揮を、次代のスターになるであろうミリー・ボビー・ブラウンが担っているというところが (メタ的な見方にはなってしまうが) 象徴的。 主人公の様々な感情がミリーによって充分に表現されていて、その成長と内面のドラスティックな変化も明快に描かれている。 脇を固める俳優達も、やや書き割り的ではあるが、それぞれの役割をしっかりと演じていて、物語としてきちんとまとまっていた。 ただ、終盤にかけて少し脚本と場面転換がガチャついた印象があり、何か事情があってかなり端折ったのかな? という想像をしてしまった。 個人的には、いち映画好きとしては何より面白い映画体験ができることが重要で、ジェンダーだったりフェミニズムだったりの議論について極端な思想は持たない (性別不平等などなくなった方がいいに決まっている) ようにしているのだが、映画そのものの体験よりもその思想的な部分が強く感じられ過ぎると、やや説教をされているような気持ちになってしまって冷めてしまうな… というのが、正直な感想だった。 この作品のように冒頭から製作者達のスタンスをメタ的に表明したりせずとも、女性が前時代的な価値観にとどまらず、なんなら男性を圧倒するほど活躍する名画が、これまでにもたくさん作られてきている。 作品として面白ければ、登場人物達の性別や人種は、個人的には全く関係がない。 といった話はさておき… ミリー・ボビー・ブラウンは、次代の価値観をその演技で体現し世界へ啓発していく、とても重要な存在になっていくのだろうと確信した。 https://filmarks.com/movies/107745/reviews/171028627

  • ミッドナイト・スカイ | The Midnight Sky (2020)

    3.0/5.0 俳優やプロデューサーとしては多くの人に超一流と認められつつ、監督すると常に微妙ともいわれがちなジョージ・クルーニーが手掛けた作品ということで、期待と不安と半分ずつで鑑賞した。 ジャンルはSF、既に文明の終末を迎えてしまった地球という設定ながらも、斬新だったり驚くような画づくりはほとんどなく、演出も終始抑制的。 ただ、物語としてはコンパクトに破綻なくまとまっている。 傑作とは評価されにくいだろうけれど、観て損したぞという気持ちにはならなかった。 宇宙船と北極という2つの舞台で並行して物語が進むが、宇宙船の方のパートについては、実力のある俳優達の好演と、総じて丁寧な演出がありながらも、全体的に既視感があってやや凡庸。 北極の方のパートは、SFというよりロードムービーのような枯れた味わいがあり、地味ではあるがこれはこれで面白いと感じた。 総じて、監督 兼 主演のジョージ・クルーニーにおける (役柄上の) 人生の総括的な旅といった趣で、自身が老齢を迎えたからこそこの役を演じたい、この原作 (「世界の終わりの天文台」というSF小説)を映画にしたいと考えたのかも知れないと想像した。 https://filmarks.com/movies/93129/reviews/170945002

  • ガンズ・アキンボ | Guns Akimbo (2019)

    3.3/5.0 いかにも荒唐無稽で漫画的な設定と脚本だが、映画のかなり序盤でこの作品のリアリティラインはここでーすという提示があるので、そういうものだと理解したうえで楽しめる作品だった。暴力描写はけっこうエグいので、観る人を選びそうなところはあるけれど… ネット社会の風刺的な要素も多少ありながら、深い読後感を残すというよりは、あまり考え込まずにガンアクションやデスゲームを存分に楽しんでくださいよ、命の扱いは軽いですがこれはそういうリアリティラインの作品ですからね、といわんばかりの振り切った演出で、製作者達のスタンスが明快でいいなと感じた。 主演のダニエル・ラドクリフの俳優としての力量はいわずもがな、主人公の役割を誠実に担っており、キャラクターアークもしっかりと描出されていてさすが。 が、ハリー・ポッターのパブリックイメージからの脱却もしくは進化のために、必要以上に無茶苦茶な役のオファーばかり無理して受けているのではないだろうか… という、映画本篇とは全く関係のない雑念的な心配の感情が湧いてしまった。 個人的に注目しているナターシャ・リュー・ボルディッゾが、この作品では脇役ながらも次期スターになりそうな存在感を発揮していて、とても良かった。 https://filmarks.com/movies/86355/reviews/170872660

  • SISU / シス 不死身の男 | SISU (2022)

    3.9/5.0 これまでほとんど観たことがないフィンランド映画で、前評判も高かったので期待して観たが、期待以上の面白さだった。 時代は第二次世界大戦末期、舞台のほとんどは荒野で、華々しさも賑やかしもないストイックな作劇。 登場人物も、主人公・悪役たち・女性たち・あと犬、以上! という感じでシンプル過ぎて笑ってしまうが、余分な材料が皆無といっていいほど存在しないので、分かりやすいことこの上ない。 ナチスや戦争といったモチーフも大きく介在してくるが、それらはあくまでも作劇上の勧善懲悪を明快にするために用いられていて、戦争という人類規模の過ちについて深く考えさせられるような哲学的な読後感はほとんど残らない。 が、徹底してエンタテインメントに振り切るこの作品のような映画もまたいいものだなと思う。 ほぼ全篇を通して容赦ないレベルの暴力的描写が際立ちながらも、劇中の要所に入ってくる遠景ショットの構図の切り方やレイアウトが思わずはっとするほど美しく、暴力と美が激しいコントラストを放ちながら同居している珍しい作品でもある。 主人公はうめき声や叫び声以外にほとんど台詞がないが、きっとどこか一番重要なシーンでクリティカルな言葉を発するのだろうと期待して待っていたら、まさかそこでそれを言うのかという裏切りがあって、完全にやられたと感じてしまった。 監督・脚本を担ったヤルマリ・ヘランダーのことはこの映画を観るまで全くノーマークだったが、今後も注目したいクリエイターがまたひとり増えて、とても嬉しい。 https://filmarks.com/movies/108563/reviews/170759600

  • ザ・ウォード / 監禁病棟 | John Carpenter´s The Ward (2010)

    3.7/5.0 80〜90年代に数々のB級ホラー映画を世に送り出してきた巨匠、ジョン・カーペンター監督による比較的最近の作品ということで期待して鑑賞したが、良い意味で全盛期と全く変わっていないその王道的な (ありがちとも言える) 演出の連続で、何だかとても懐かしい気持ちになりながら終劇まで楽しんだ。 近年のホラー映画だと、恐怖演出の手法として安直過ぎると敬遠されがちなジャンプスケアも、この映画では極めてストレートかつ全く遠慮がないレベルで多用されていて、ここまで堂々と使われたらそりゃこっちもジャンプしますよという気持ちになる。 主演のアンバー・ハードはこの映画の製作当時かなりの若手ながら役柄に入り込み熱演していて好感が持てたし、脇を固める俳優達もそれぞれ個性的かつそれぞれの役割をしっかり担っていて、舞台のスケールは小さいながらも退屈にはならない。 終盤で物語がかなり急激にツイストするタイミングがあり、そこまでのいくつかの場面で少し不自然に感じるところがありながらもあまり深く考えたり裏読みしたりせずに鑑賞していた自分としては、おーなるほどそういう展開なのかと素直に驚くことができた。 映画史に残る作品なのか? と問われれば恐らくそんなことはないだろうと思うけれど、類まれなる個性と才能でハイレベルなB級映画を作り続けてきたジョン・カーペンター監督には、個人的には強い敬意を抱いている。 ハイレベルなB級映画って何? とは自分でも思うけれど、A級やS級じゃなくたって、面白くて愛すべき映画はたくさんある。 https://filmarks.com/movies/14677/reviews/170698311

  • 殺人の追憶 | Memories of Murder (2003)

    5.0/5.0 自分にとって初めて本格的に鑑賞した韓国映画で、今や世界的にその才能が認められたポン・ジュノ監督のキャリア初期の作品。韓国で実際に起きた痛ましい事件をベースとした脚本の構成力や演出の凄みに圧倒された。 陰鬱とした重苦しい空気が映画を支配していて、現代的なモラルに照らせば目を背けたくなるようなシーンも多いので、観る人を選ぶことは間違いなさそうだが、事件当時の1980年代の韓国が抱えていた閉塞的な空気感や、その時代を生きた人間たちの息遣いを再現するという意味で、相当に誠実かつハイレベルな映画表現を成立させている。 ソン・ガンホが演じる主人公の刑事のひとりが終幕の瞬間に見せる表情には、映画的結末に至るまでの様々な経緯と感情が複雑に織り込まれており、その俳優の演技力と監督の演出力は凄まじい。 史実がベースではあるもののフィクショナルな映画作品として観ていた鑑賞者に向けて、ある意味でメタ構造的な問いのメッセージを、スクリーンや時代を超越して投げかけているように感じた。 なかなか他作品では観られないこの作品の空気感と衝撃的な幕切れは、映画ファンならば一見の価値があると思う。 https://filmarks.com/movies/20881/reviews/152645278

  • クローバーフィールド・パラドックス | The Cloverfield Paradox (2018)

    3.9/5.0 クリフハンガー的に物語の風呂敷を広げる手法が天才的に上手い (ただし畳むのはそれほど上手くない) J・J・エイブラムスが仕掛け人のクローバーフィールドシリーズには、他篇との世界観的な繋がりが示唆されながらも、それぞれ独立して楽しめるSF映画の楽しさがあり、この3作目も面白く鑑賞できた。 地球規模の危機に際して人類未踏の実験に挑む人々を描きつつ、未踏ゆえに予測不可能で常識外の事象が発生し… というプロットをオーソドックスといってしまえばそれまでだが、その奇怪さと恐怖の描き方はしっかりしていて、登場人物達の個性や役割が丁寧に設定されていることもあり、SFホラーとして安定的な面白さがあった。 大きくは宇宙ステーションパートと地上パートに分かれており、地上パートも脚本上必要であったことは分かりつつ、やや退屈だったところが少し残念。 主人公を演じたググ・バサ=ローをはじめ、ダニエル・ブリュールやエリザベス・デビッキといった名優達の力量も映画全体の安定感を下支えしていると感じた。特にエリザベス・デビッキの変幻自在な役作りと画力は別格。 文字通りの意味での前2作との異次元的な接続がこの3作目で提示されたところは、このシリーズの1作目からのファンにはなかなか驚きがあって嬉しかった。 4作目もまた、これまでの3篇とは全然違ったアプローチでセンス・オブ・ワンダーを体験させてもらえることを期待して待ちたい。 https://filmarks.com/movies/71293/reviews/152619935

  • MEN 同じ顔の男たち | MEN (2022)

    2.0/5.0 アレックス・ガーランド監督の、全てを説明してしまわず鑑賞者に想像の余白を残す作風には強い作家性があり稀有な存在だなと思いながらも、この作品は個人的にはあまり面白いと思えず、少し残念だった。 序盤から中盤頃までの、不気味な構図やレイアウトを巧みに用いたにじり寄るような不穏な恐怖の描き方には凄みがあって、単純なジャンプスケアに頼らないハイレベルな演出だなと感じていたが、終盤はその良さをかき消してしまいかねないぐらいの安直なジャンプスケアや、不快感を残すこと以外に存在意義が分からないようなグロテスクな描写が多く、前半と後半でまるで別の映画のようだった。 脚本をストレートに解釈すれば、トラウマ的な経験をしてしまった女性の主人公が払拭できない異性嫌悪の可視化ということなのかなと思うが、主人公以外の登場人物達 (MEN) の役割がそこに終始しているというか、そこ以外に機能していないように感じた。 終盤で描かれる超展開 (相当にグロいし率直に不快) には唖然としてしまったが、それは主人公が陥っているいわば精神的で輪廻的な煉獄の可視化なのだと解釈するならば、その舞台や人物たちが果たして実像なのか、虚像なのか、あのモチーフは何だったのかといった表層的な部分を考察する意義はあまりないのだろうとも思う。 何より、全篇を通しての主人公の心理の変化というかキャラクターアークがほとんどないため、主人公のどの部分に共感しどういった読後感を持ち帰ればいいのかが分からない。 アレックス・ガーランド監督と似た作風のクリエイターとして、デヴィッド・リンチを想起する映画ファンも少なからずいるのかなと思った。 不条理かつ神秘性があって想像の余地を残す脚本や、スクリーンを越えて襲ってくるかのような恐怖の卓越した演出という意味では共通する部分もあるが、個人的には、デヴィッド・リンチ監督の作品の方がより人間の根源的な恐怖や感情の機微を描くことに成功しているなと思う。 アレックス・ガーランド監督の作風と自分の感性は、あまり相性が良くないのかも知れない。 https://filmarks.com/movies/101684/reviews/170489120

  • スペースマン | Spaceman (2024)

    3.5/5.0 この映画の監督のヨハン・レンクが手掛けた「チェルノブイリ」が衝撃を覚えるほどの傑作だったので、史実ベースではないこのSF映画はどんな物語になるのだろうと期待しながら鑑賞した。 広大な宇宙を舞台にしながら、極めて内省的で精神的かつ哲学的な、静かに鑑賞者に問いかけてくるような作品だった。全く予想外の脚本だったので驚いたけれど、こういう物語もまた成立するところがSF映画の懐の広さだなあなどと思いながら、じっくり鑑賞できた。 旧ソ連の名作SF「惑星ソラリス」にやや近い読後感。 主演のアダム・サンドラーと、異形の生物の声を担ったポール・ダノの2人芝居が映画のほとんどのパートを占めているが、抑制が効きながらも人間性 (そのうち1人は異形だけれど) の重さを感じる演技が物語に説得力を与えており、カメラワークや演出の丁寧さもあって、退屈しなかった。 ただ、いわゆるハリウッド系の派手目な演出とは完全に対局にあるような作風なので、合わない人にはとことん合わないかも知れない。 好き嫌いが激しく分かれそうなタイプの独特な作品だけれど、自分にとっては観て良かったと思える映画だった。 https://filmarks.com/movies/107781/reviews/170409334

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